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母親いるなら猶更気にかけなくていいと思うと妙に心が軽くなった俺は、なんだかんだ気にしてた自分にどんなお人好しだよ、と自身を嘲笑しながら子どもの傍を横切った。
「ママ見てー! ハチさーん!」
子どもの溌溂とした声に、俺の足が止まった。視界の端に映る母親の顔が青ざめるのが見えた。
俺は思わず子どもの方を見た。
おい、待て
お前何手を伸ばしてんだよ
それ、本当にハチじゃねぇか、しかも
「スズメバチじゃねぇか! 触んなぁ!」
俺の叫びに子供の手が驚いて止まる。
だが、花の上でくつろいでいた向こうは違う。攻撃されると思ったのか、臨戦態勢をとってブゥンと羽音を立てながら浮かんでいた。
日光に反射する、毒々しい何かがハッキリ見えた気がした。
「ばかやろう!」
ああ、俺は何してんだ。
別に、子どもを引っ張って逃げてやりゃぁよかったじゃねぇか。
それで刺されても、子どもが悪いじゃねぇか。
ちゃんと見てなかった親が悪いんじゃねぇか。
ああ、何で、俺は。
蜂を、素手で掴んでんだ
手の中におさまった蜂が大人しくしているわけなんかなく、すぐに俺の掌に鋭い痛みが走った。
「ってぇ!!」
痛い、めっちゃいてぇ。
ああなんだよ畜生、こんなにいてぇのかよ。
俺が手を開くと蜂が落ちた。
ああ、くそ、なんか手に穴あいてねぇか?
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