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俺が目を覚ましたら見えたのは、真っ白な天井と、全く同じあの女性の顔だった。いくらなんでもデジャヴすぎて、夢か、と思った俺はその髪に手を伸ばして、今度こそ触って「ああ、綺麗だ」と笑った。
「キャッ」
やけにリアルな感触を指で撫ぜていたら、小さな悲鳴が聞こえた。
ふと髪の持ち主を見ると、頬を真っ赤にしてこちらを凝視している。
じわり、じわり、と現実が突き付けられ始める。
「……すみま、せん」
いや俺何してんだマジで。
セクハラだの変態だの騒がれてもおかしくねぇじゃねぇかこれ。
ああ終わった。俺の人生終わった。
そーら今だぞー神様。さぁ世界を爆発させろーい。
俺がそんな馬鹿なことを考えていると、女性は髪を直しながら「あ、あの、こうちゃんを守ってくれて、ありがとうございました」と深々と頭を下げた。
座ったまま頭を下げると、黒い輝きを持つ繊維がさらりと揺れ、やっぱり綺麗だった。
「えーと、あの子のお母さんですよね」
「あ、違うんです。その、母親の妹で、あの子にとったら、叔母にあたります」
その発言に、俺は心なしかホッとする。
しっかり言葉を発せれる子どもの親が自分より若いと、自分の存在全てが世界に遅れているようで嫌な気持ちがするのだ。
「あの、それで……その、お礼に、もし、よかったら……その、食事でも、と」
妙に髪をいじりながら彼女は言う。
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