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木星の話
月のない夜 木星が 空から ひらりと
地べたに 飛び降りた
飛び降りたそこは 深夜の空気をまとった
大都会
霞に煙るBARに入ろうとしたとき
目についた 注意書
『一見さまお断り また木星 お月さまの入店を禁ず』
おやなんということだろう!
木星がそう思ったのと 思い返したのと
同時であった
昨晩 どこぞの酒屋で お月さまとたいへんな
取っ組み合いをして 店のなかを ぐちゃぐちゃにしてしまったことを
この店であったか
仕方なく 木星は シルクハットであるリングを
戸口の裏に隠し 星よろしく変装を行った
従業員はもちろん店主すら 木星の正体に気づかず
ただの星としての接待を受けた
ウイスキーのロックを口につけた時
にわかに木星は 妙な気持ちになった
胸のなかを 小石を転がしたように
カランコロンと 小さな痛みが鳴っていた
それは月のない晩の間続いた
日にちが過ぎ お月さまが顔を見せた一日目の夜
木星はお月さまに 首を垂れた
「いつかの夜は悪いことをしたね
後生だから 許してくれないだろうか」
酒屋の注意書は いつの間にか消えていた
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