1.君島駿

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1.君島駿

医学部も四年生になった12月。 「駿(しゅん)、イヴには東京で一番大きいクリスマスツリーが見たい。」 「東京で一番大きい?」 「うん。ザ東京タワー。」 張り切って言う清香(きよか)が可愛くて思わず笑ってしまう。 「スカイツリーじゃなくて?」 「ううん、あれはダメよ。二番煎じ。」 「そうなの?うん、勿論いいけど、じゃあ東京タワーで待ち合わせする?」 「うん、でも何時になっちゃうかわからないの。」 清香はレジデント一年目だ。胸部外科志望だけど、一年目はローテ―トするから今は丁度救急だ。よりよって予定が全く立たない科とは。 「そうだよね、それが救急の救急たるゆえんだもんな。」 「もう、そんな呑気なこと言ってないで。でもだからね、すごく待たせちゃうかも、っていうか待たせるな、絶対。」 「待つのは平気。清香のお陰で耐性ついたし。」 「それって、おかげって言うかな。ねえ、じゃあ一応9時にしてもらっても良いかな。」 「いいよ、9時ね。」 「当直じゃないから、遅くとも10時までには行けると思うから。」 「OK。」 「あったかくして待っててね。」 「わかった。ホカロン巻いとくよ。」 「うふふ。ああ、楽しみだなあ。やっと会えるね。二ケ月ぶり?」 「うん、それくらいかな。」 「あ、ごめん、呼ばれちゃった。じゃあ行くね。」 背後で病院のざわめきが聞こえる。 「うん、頑張って。行ってらっしゃい。」 でももう電話は慌ただしく切れていた。僕はちょっと笑った。清香がパタパタ走っていく姿を想像して。確かに全然会えないけれど、彼女が病棟で頑張っている姿を思うだけで、心が温かくなるし、会えない寂しさも減る。
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