39人が本棚に入れています
本棚に追加
1.君島駿
医学部も四年生になった12月。
「駿、イヴには東京で一番大きいクリスマスツリーが見たい。」
「東京で一番大きい?」
「うん。ザ東京タワー。」
張り切って言う清香が可愛くて思わず笑ってしまう。
「スカイツリーじゃなくて?」
「ううん、あれはダメよ。二番煎じ。」
「そうなの?うん、勿論いいけど、じゃあ東京タワーで待ち合わせする?」
「うん、でも何時になっちゃうかわからないの。」
清香はレジデント一年目だ。胸部外科志望だけど、一年目はローテ―トするから今は丁度救急だ。よりよって予定が全く立たない科とは。
「そうだよね、それが救急の救急たるゆえんだもんな。」
「もう、そんな呑気なこと言ってないで。でもだからね、すごく待たせちゃうかも、っていうか待たせるな、絶対。」
「待つのは平気。清香のお陰で耐性ついたし。」
「それって、おかげって言うかな。ねえ、じゃあ一応9時にしてもらっても良いかな。」
「いいよ、9時ね。」
「当直じゃないから、遅くとも10時までには行けると思うから。」
「OK。」
「あったかくして待っててね。」
「わかった。ホカロン巻いとくよ。」
「うふふ。ああ、楽しみだなあ。やっと会えるね。二ケ月ぶり?」
「うん、それくらいかな。」
「あ、ごめん、呼ばれちゃった。じゃあ行くね。」
背後で病院のざわめきが聞こえる。
「うん、頑張って。行ってらっしゃい。」
でももう電話は慌ただしく切れていた。僕はちょっと笑った。清香がパタパタ走っていく姿を想像して。確かに全然会えないけれど、彼女が病棟で頑張っている姿を思うだけで、心が温かくなるし、会えない寂しさも減る。
最初のコメントを投稿しよう!