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5.林凛
あれ、若林くんだよね?アメリカから戻って始めて見るかな。珍しい、チャペルで見かけるなんて。また何かトラブったのかしら。
私は、夕方から行われるクリスマスイヴ礼拝の準備を手伝いに礼拝堂に来ていた。今年はイヴが土曜日だったから、病棟にオフを申請するのもすんなり出来た。一樹も後から来るって言っていたし。その後銀座でデートだ。久しぶりだから嬉しいな。でも、イヴの銀座なんて混むだろうし、レストランは軒並み“クリスマスディナー”で、目が飛び出るほど高いコースだけになっちゃうんだよな。どうしよう。
そんなことを考えていたら、若林くんが席を立つのが見えたから傍に駆け寄った。
「よ、久しぶり、同期。」
一瞬面食らったようで、ちょっと笑っちゃった。
「小児の師長の三田さん?ああ、もう結婚したんだってね。ええと、」
「林よ。ちょっと若林くんの子分になったみたいでしょ。」
「子分って。」
おかしそうな表情をする。
「それ、その顔。」
「えっ、何?」
「そうしてたら可愛いのに。」
「可愛い?」
「うん、若林くん、最近ずっと眉間にしわ寄せてばっかりだから。もう外科の若手のナースとかドクターとかがビビりまくりって、小児にまで聞こえてきてるよ。」
「まさか。」
「本当。で、どうしたの?また何か嫌なことあった?」
「どうして?」
「だってチャペルだなんて、珍しいもの。もしかしてイヴ礼拝、出られるの?」
「あ、いいや。ただ時々来たくなるんだ。」
「若林くん、怖いの?」
「ええ?」
「だって若林くんのやってることは、命を救うことでしょ、しかも自分の腕一つで。怖くないはずないもの。幾ら自信満々の君でもね。」
「自信満々って。俺、そう見えるの?」
「見える、見える。特に眉間のしわのせいで。あれ、それ変か。しわって苦悩とかだもんね。ま、いいか。それとあとその瞬間移動のせいで。自信が無い人はそんなに飛んで行けませんから。」
「あはは。瞬間移動ねえ。」
よく笑うのにな。でも何だか笑顔が泣いているように見えるよ。
「ねえ若林くんってさ、友達いる?」
「友達?」
「うん。そうじゃなくても、心許せる人だよ。何でも話せる人。あなたがしわを寄せずにしゃべれる人。恋人はいないのよね、あれだけ付き合ってるくせに。」
「いない。」
「若林くんの周りは敵ばっかりに見えるから、心配だよ。誰か一人でもいいから、あなたのことをわかって、一緒に笑ったり悔しがったりしてくれる人がいるといいのに。探しなよ、そういう人。」
私はその広い背中をバンバン叩いた。
「痛え。何で俺、叩かれてんの?」
「エールよ、エール。」
「ありがたく受け取っとくよ。」
そう言うと、ちょっと笑って手をあげて瞬間移動していった、私の同期は。いつでも颯爽としているその背中は、でも時々とても孤独に見える。闘って道を切り開いて、でもいつでも独りだから。
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