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「一樹、ここここ。」
礼拝が始まるギリギリに一樹が駆け込んできた。会社のシステムの不具合で、今日は一日呼び出されていた。良かった、間に合って。
「大丈夫?」
外の冷たい空気をまとって一樹が隣に座る。
「うん、何とか終わった。」
「良かった、間に合って。」
私は一樹の手を握った。大好きな一樹。
礼拝が終わって、銀座の街を手をつないで歩く。去年、この中央通りでプロポーズされた。二人でミキモトのクリスマスツリーを見上げていたんだ、あの時。大人っぽいシックなツリーを。
「綺麗だねえ。やっぱり銀座のクリスマスって言えば、ミキモトのツリーだよね。」
「中に入ろう。」
「へ?中って。私達何か用あったっけ?」
「うん、ある。婚約指輪。」
「ええっ、一樹、いつプロポーズしてくれたっけか?」
「あのね、今してるんだけど。」
「そうなの?うんうん、勿論するよ、あなたと結婚。だって大好きだもの。」
一樹が苦笑している。
「?」
「先に言われるなんてな。まだ言い終わる前に。三田凛さん、僕と結婚して下さい。」
「ああ、今なのか。うん、さっきも言ったみたいにするよ、だってどう考えたってあなた以外いないもの。」
「何だかな、一世一代の勇気を出したのに。当たり前過ぎる…」
「ちょっと、意気消沈しないで。あのね、すごく嬉しいんだよ、私。だってこれから、ずーっと一緒にいられるんだもの。」
「大学から一緒で飽きないの、僕のこと?」
「飽きるはずないじゃん。毎日もっと好きになってくのに?」
「ああ、いいよな、凛のそういう所、本当に。」
そう言って、天下の銀座の中央通りで一樹はキスをしてくれた。私は嬉しくて嬉しくて、ミキモトのツリーに負けないくらいピッカピッカに光ってたと思う。
「覚えてる、去年のこと?」
「忘れると思う?凛、あの後ミキモトにマーチして行ってさ、店員さんだれかれに僕たちの婚約のこと、話したじゃない。」
「ああ、そうだったね。私、もう有頂天でさあ。ともかく皆に知ってもらいたかったんだよね。」
「うん、その後で電話かけまくってたよね。あと報告メールも。」
「やったやった。あはは。」
「あははって。僕はもう恥ずかしくて穴を探してたよ。」
「掘ってあげたのに。なんてね。でも嬉しいな、こうして一年経っても一緒にツリーを見られて。」
「ずっと見られるよ。」
私は幸せなため息をついて、一樹のダッフルコートの腕にもたれた。大学時代から大好きだった一樹。見てるだけで精一杯だったこの人の妻になったなんて。
ふと、チャペルで見送った背中を思い出す。見つけろ、若林、自分だけのオンリーワンを。そして幸せになれ。
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