12.ブルーとナイトとゴールド

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「でさ、そのナイトなんだけど。」 こいつはまたナイトの彼女情報か? 「うん。」 「今彼女がエメリってのは話しただろ?」 「うん、聞いた。あんたコンビニで雑誌買っちゃったんでしょ。」 「そうそう。写真カッコ良かったよな。お前、見た?」 「うん、見た。“エメリの秘密”コーナーで。」 「ナイトってさ、あんなにカッコ良かったっけ?いや、勿論伝説なのはずっと高校時代からわかってたけどさ、なんか大学に入って磨きがかかった感じしねえ?」 「しねえ?て言われても。私実物に会ってないし。」 「うん、なんかさ、ナイト、高校時代はサッカー部のキャプテンです、何でも出来ちゃいます、って感じだったんだけど、今はもう少し陰影が出てきたっていうか。シンプルにカッコいいっていうより、ひねりが効いてきたっていうかな。なんか秘密めいてきたっていうかさ。」 秘密めいてきた、か。会ってみたいなあ、ほんの一目でもいいから。放課後、グラウンドを走り抜けていた、ゴールを決めてチームメイトにもみくちゃにされていたナイトが、陰影を持つようになっただなんて。変わっていくんだね、私たちみんな。 おっと、でもここに代わり映えのしないやつがいる。 「あんたはどうなの?少しは陰影出てきたの?」 「俺?お前どう思う?」 「ゼロ。限りなくゼロ。」 「ええっ、レギュラー入りできなくて苦悩してんのに?」 「足りないんじゃないの、苦悩が。で、あんた何で電話かけてきたのよ?」 「おお、そうだった。そのエメリがさ、何か公開撮影みたいなのをやるらしいんだよ、表参で。」 「へえ。」 「それがイヴでさ。あのイルミネーションの所で。」 「うわ、それ限りなく通行妨害っぽくない、あの人通りの中でさ。」 「まあ、いいんじゃね、あのエメリだから。」 「うん、だね。」 広告、CMと毎日顔を見ないことはない、大人気モデルのエメリ。大きなたれ目で、でも鼻筋は通ってるし、唇は少女的な瞳とは対照的に肉感的で、そのアンバランスさが大きな魅力になってる。八頭身とも九頭身とも言われている小顔ぶりで、ニーハイブーツが似合う長い脚の持ち主。そのエメリと付き合っているナイト。遠くて手なんか届かない。一目なんて見られやしない。 「で、そこにナイトも呼ばれてるんだと。」 「は?」 「この間の雑誌の反響がすごかったらしくて、であいつの昔からのファンたちも再燃、みたいな感じで今すげえことになってるんだよ、ナイト。」 「いつでもすげえことになってるんじゃなかったっけ、あの人は。」 ナイトと口に出せない。 「だから、俺行きたいんだけど。でも練習あんだよな。土曜だってのに、イヴだってのに。」 「レギュラーたちはそんな甘いこと、考えもしないだろうねえ。」 「ちきしょー。そうなんだよな。なんか心がけからして、筋金入りっていうかさ。俺、禅寺でも行って修行してこようかな。」 「煩悩がありすぎてお断りされるかもよ。その前に練習しなさいよ、練習。」 「おう。やっぱそこだよな。俺、お前と話してると気合入んだよ。」
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