12.ブルーとナイトとゴールド

6/13
前へ
/47ページ
次へ
その夜、ゴールドに電話した。こいつと話すとホッとする。何年経っても。 「ナイト、久々じゃん。どう、医学生は?」 「一年の時と違って、基礎医学が始まったから、いよいよ医学部だって感じはするな。」 「基礎医学って何?生物とかああいうの?」 こいつのこういう素直な質問はいつも良いんだよな。知ったかぶりやカッコつけが皆無で。 「俺、お前のそういうところ、ほんと好きだよ。」 「へ?どういうところ?」 「カッコつけずに何でもすぐに聞くところ。」 「知らねえことは聞かなきゃわかんねえじゃん。」 「そう、そうだよな。ほんとお前の言う通り。」 「ああ、お前の周りの優秀な医学生さんたちは、そういうの恥ずかしいとかって思いそうだもんな。プライドが許さないとかって。」 「まあ、そういうやつもいるな、確かに。」 「馬鹿バカしい。知らねえことを恥ずかしいって思うのが、俺にはくだらなく思えるね。全部知ってるやつなんかあり得ねえんだから。」 「なんかな、お前と話してると物事をシンプルに見れるよ。」 「単に馬鹿なのよ、ってブルーなら言うぜ、絶対。」 突然、怒っているような泣きそうな顔が浮かんで驚いた。何で俺はこんなに鮮明に彼女の顔を思い出せるんだ? 「で、何か用あった?」 「ああ、エメリの撮影に俺も出ることになってさ。」 「うひょーっ、マジ?お前出世したなあ。」 苦笑した、こいつの素直過ぎる反応に。 「出世かどうかはわかんないけど、編集部から要請があってさ。」 「あ、この間のあれだろ?エメリのコーナーの。あの写真、お前カッコ良かったもんな。いつにも増して。もううちの真珠なんて大興奮で、すぐさまコンビニに買いに走ってたわ。」 「サンキュ。それで、その撮影、表参でやるらしいんだ、イヴの夕方から。」 「げ、マジ?あんなに混んでるイルミネーションの所で?」 「うん、俺もそう思ったんだけど。なんか特設ステージみたいなのをセットしてやるらしいよ。」 「へえ、さすがエメリだな。夕方って何時から?」 「6時だってさ。」 「お前も出るんだろう?」 「ああ、多分な。あんまり詳しく聞いてないけど。」 「何着か着替えちゃったりすんの?もうモデルじゃん、いっぱしの。」 「いっぱしって。」 何だか楽しくなって笑った。こいつと話をすると、いつも気持ちが晴れる。 「で、良かったら来いよ。お前に会いたいしさ。」 「えっ、行っていいの?生エメリ見れんの?」 「生ナイトもな。」 「ああ、じゃあさ、俺ブルー連れて行こうかな。お前ら全然会ってねえだろ、卒業式から。」 「え、ああ。そうだな。」 「何だよ、嬉しくねえの?三人で会えたら、何かちょっと青南時代みてえじゃん。」 「うん。」 「どうした?お前が嫌なら誘わねえけど。」 「嫌じゃないよ。」 「そうか?なら聞いてみるわ。で、また電話する。それでいいか?」 「ああ、うん。じゃあな。」 「おう、じゃあな。頑張れ、ナイト。」 何をだよ?と言おうとしたけど、あいつの笑い声を残して電話はもう切れていた。ブルーって、紺野さんだよな。三回も背中を見送った。今日一日で二回も彼女のことを思い出すなんてな。 しばらく経ってゴールドから電話がかかったてきた。 「よお、ナイト?」 「ゴールド。」 「やっぱごめん、24日、俺練習入っちゃってさ、行けないわ。」 「ああ、いいよ、そんなの。何て言ったって天下のY大だもんな。」 紺野さんは来るのか? 「で、ブルーもダメだってさ。なんかあっさり断られたわ。」 「ああそう。」 「ブルーってお前がらみだとすぐ断んのな。変わってないっていうか。もう三年も経ってんのにブレねえな。あはは。」 ブレないってそういう時にも使うのか?ゴールドの明るい笑い声を聞きながら、軽い失望を味わっていた。やっぱり来ない。来ないだろうとは思っていたけど。思っていたくせに失望してるって、何でだ?紺野さんのことはわからない、不可解なまま、彼女は俺の心の中にいる。もう三年も経っているのに。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加