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その夜、ゴールドに電話した。こいつと話すとホッとする。何年経っても。
「ナイト、久々じゃん。どう、医学生は?」
「一年の時と違って、基礎医学が始まったから、いよいよ医学部だって感じはするな。」
「基礎医学って何?生物とかああいうの?」
こいつのこういう素直な質問はいつも良いんだよな。知ったかぶりやカッコつけが皆無で。
「俺、お前のそういうところ、ほんと好きだよ。」
「へ?どういうところ?」
「カッコつけずに何でもすぐに聞くところ。」
「知らねえことは聞かなきゃわかんねえじゃん。」
「そう、そうだよな。ほんとお前の言う通り。」
「ああ、お前の周りの優秀な医学生さんたちは、そういうの恥ずかしいとかって思いそうだもんな。プライドが許さないとかって。」
「まあ、そういうやつもいるな、確かに。」
「馬鹿バカしい。知らねえことを恥ずかしいって思うのが、俺にはくだらなく思えるね。全部知ってるやつなんかあり得ねえんだから。」
「なんかな、お前と話してると物事をシンプルに見れるよ。」
「単に馬鹿なのよ、ってブルーなら言うぜ、絶対。」
突然、怒っているような泣きそうな顔が浮かんで驚いた。何で俺はこんなに鮮明に彼女の顔を思い出せるんだ?
「で、何か用あった?」
「ああ、エメリの撮影に俺も出ることになってさ。」
「うひょーっ、マジ?お前出世したなあ。」
苦笑した、こいつの素直過ぎる反応に。
「出世かどうかはわかんないけど、編集部から要請があってさ。」
「あ、この間のあれだろ?エメリのコーナーの。あの写真、お前カッコ良かったもんな。いつにも増して。もううちの真珠なんて大興奮で、すぐさまコンビニに買いに走ってたわ。」
「サンキュ。それで、その撮影、表参でやるらしいんだ、イヴの夕方から。」
「げ、マジ?あんなに混んでるイルミネーションの所で?」
「うん、俺もそう思ったんだけど。なんか特設ステージみたいなのをセットしてやるらしいよ。」
「へえ、さすがエメリだな。夕方って何時から?」
「6時だってさ。」
「お前も出るんだろう?」
「ああ、多分な。あんまり詳しく聞いてないけど。」
「何着か着替えちゃったりすんの?もうモデルじゃん、いっぱしの。」
「いっぱしって。」
何だか楽しくなって笑った。こいつと話をすると、いつも気持ちが晴れる。
「で、良かったら来いよ。お前に会いたいしさ。」
「えっ、行っていいの?生エメリ見れんの?」
「生ナイトもな。」
「ああ、じゃあさ、俺ブルー連れて行こうかな。お前ら全然会ってねえだろ、卒業式から。」
「え、ああ。そうだな。」
「何だよ、嬉しくねえの?三人で会えたら、何かちょっと青南時代みてえじゃん。」
「うん。」
「どうした?お前が嫌なら誘わねえけど。」
「嫌じゃないよ。」
「そうか?なら聞いてみるわ。で、また電話する。それでいいか?」
「ああ、うん。じゃあな。」
「おう、じゃあな。頑張れ、ナイト。」
何をだよ?と言おうとしたけど、あいつの笑い声を残して電話はもう切れていた。ブルーって、紺野さんだよな。三回も背中を見送った。今日一日で二回も彼女のことを思い出すなんてな。
しばらく経ってゴールドから電話がかかったてきた。
「よお、ナイト?」
「ゴールド。」
「やっぱごめん、24日、俺練習入っちゃってさ、行けないわ。」
「ああ、いいよ、そんなの。何て言ったって天下のY大だもんな。」
紺野さんは来るのか?
「で、ブルーもダメだってさ。なんかあっさり断られたわ。」
「ああそう。」
「ブルーってお前がらみだとすぐ断んのな。変わってないっていうか。もう三年も経ってんのにブレねえな。あはは。」
ブレないってそういう時にも使うのか?ゴールドの明るい笑い声を聞きながら、軽い失望を味わっていた。やっぱり来ない。来ないだろうとは思っていたけど。思っていたくせに失望してるって、何でだ?紺野さんのことはわからない、不可解なまま、彼女は俺の心の中にいる。もう三年も経っているのに。
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