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「ああ、いいわあ、なんか青春ドラマみたいじゃない。」
「お、お姉ちゃん、どうしたの?感想がおばさんみたいだよ。」
「ごめんごめん。でもほんとにいいなって思ったのよ。で、12月になったと。」
「うん。それで、でも12月になったからって、じゃあいつ言うとかって、別に約束もしてなかったから、普通に日にちが過ぎてってさ。サークルでも、別に目が合うとか特別なことは何も無かったし。」
「その辺の当たり前さがいいよね。ドラマじゃないんだから、そんなに何もかも一遍には起こらないって。」
「うん、そうなんだよね。好きなんだけど、それだけじゃなくて、勉強も試験も生活もあって毎日を過ごすしさ。そしたら先週の水曜日かな、授業が全部終わって学食でお茶してたら、」
「あんた、学食でお茶すんの?地味くさくない?」
「地味って。堅実と言って。でも、案外良いんだよ、うちの学食。今はクリスマス限定デザートセットとかも午後からあるしさ。」
「そんなに?すごいねえ、あんたんとこの学食。」
「いいでしょ?で、その日は講義遅くまであったからさ、ヘトヘトで、学食にたどり着いてクランベリーケーキ食べてたら。」
「え、クランベリーケーキとかあるの?」
「そうだよ、あとはホワイトチョコのブッシュドノエルとか。」
「マジか。そりゃ学食行くわ。」
「でしょー?ってそうじゃなくて。ケーキを食べ終わって、ミルクティーを飲んでたら、彼が隣に座ったの、突然。」
「うわあ。」
「私びっくりしちゃって。そうしたらあろうことか、しゃっくりが出ちゃったんだよね。」
「ああ、あんた、子どもの頃からびっくりするとしゃっくりよく出てたよね。あれ、でももう止まってたんじゃなかったっけ?」
「うん、私ももう大丈夫だなあって思ってたんだけどね。でも、出ちゃって。止まらなくて。」
「そうそう、あんたのしゃっくりって、いったん始まるとなかなか止まんないのよね。気の毒に。」
「うん、だからさ、だんだん涙目になってきちゃって。彼も冷たいお水とか持ってきてくれたんだけど。背中も叩いてくれたりしてさ。でも全然ダメなの。もう私情けなくてさ。」
「ああ、わかる。何で今?だよね。」
「うん、その通り。そうしたら彼が『驚けばきっと大丈夫だね?』って言うから、私頷いて。そしたら『じゃあ言うよ。君が好きです。付き合ってください。』って。きゃああー。」
また顔を覆っている。さらに可愛い。
「おお、ナイスな展開。」
「そしたら、一発でしゃっくり止まった。」
私たちは大笑いした。その時の彼とまりのことを思うと、ともかくおかしくて幸せで。
「でもさ、お姉ちゃん、私心配になっちゃって。これ、単に私のしゃっくりを止めるために言ったのかなって。だから『私はあなたがしゃっくりをしてなくても好きです。』って言ったの。」
「偉いっ、さすが我が妹。」
「そしたら、彼、ちょっとキョトンとした後、爆笑して『僕の気持ちはしゃっくりとは何の関係もないよ。』って。またその時の笑顔がカッコ良くて。もうさあ。」
うっとりしている、手放しで。
「いいねえ、いい。話を聞いてると全体にすごくいいよ。ね、写真無いの?」
「サークルの試合の時のならあるよ。」
「見せて見せて。あと今日のデートでしっかり撮っておいでよ、二人の写真。」
「うん、わかった。」
そうして見せてくれた彼は、確かに素敵だった。すっきりして、五月の風が似合いそうな。
「まり、素敵じゃない、彼。」
「うん、私はそう思うんだけど、お姉ちゃんもそう思う?」
「うん。あとは誠実かどうか、それを見極めなよ。」
「ああ、うん、はい。お姉ちゃん、今ちょっとママ入ってたよ。」
「ああ、お母さんね、あの人のアドヴァイスに従っとけば恋愛はきっと負け知らずだよね。」
「そうだね。お姉ちゃんは従わないの?」
「えっ?」
「だって全然恋愛の話聞かないもん。」
「そうだよね、まったく、あのお母さんの娘だっていうのに。」
そう言って笑った笑顔は、でも少し寂しそうだった。お姉ちゃん、時々部屋で泣いてるよね。高校時代からそうだった。どうしたんだろ、つらい恋なのかな。心配だな。私が幸せなのと同じくらいお姉ちゃんにも幸せを感じてほしいんだけどな、本当に。
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