12.ブルーとナイトとゴールド

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ああ、良かった。まりの話は本当に可愛くて幸せで。私も頬が緩んできちゃう。 おっとこれからクリスマス礼拝だ。私は大学の、というか、病院のチャペルに来ていた。席がすぐ埋まってしまうから少し早めに。   あれ、あそこで話しているのは小児病棟の林師長じゃないかな?ドクターと話をしている。何だかちょっと疲れているみたいな、でもああいう人をダンディーって言うんだろうなっていう感じのドクターだ。オペ着に白衣だけで寒くないのかしら。石造りだから結構ここ冷えるんだけど。そんなことを思っていたら、ダンディーが立ち上がってちょっと手を振って(そんなしぐさもきまっていた)出て行った。礼拝には出ないのか。ドクターたちにこそ、礼拝に出てもらいたいのになあ。いつも命を守る闘いをしているあの人たちにこそ。 「林さん。」 「ああ、ええと。」 「看大3年の紺野麻です。病棟実習ではお世話になりました。」 「ああ、紺野さんね、そうだった、健太郎くんの受け持ちさんね。」 「はい、あの、その後健太郎くんいかがですか?」 「うん、だいぶ状態も安定して、今日は初の外泊よ。」 「ほんとですか?うわあ、良かった。」 「そうだよね、クリスマスだもん。おうちに帰らなきゃだよね。」 「ほんとですよね。じゃあご家族みんな喜ばれましたね。」 「うん、そりゃあもう。おじいさんおばあさんも大喜びでね。」 「ああ、良かった。」 「うん、紺野さん、良い看護したもの。」 「あ、いえ、全然。ご迷惑ばかりおかけして。」 「そんなこと無いわよ。よくご家族のことも見てたし、健太郎くんも紺野さんには随分心を開いてたしね。ともかくよく頑張りました。」 林師長はそのトレードマークの温かな笑顔で褒めてくれた。大学の先生から褒められるのも勿論嬉しいけれど、臨床現場で褒められるととても嬉しい。厳しい日々の中で過ごしているプロたちに、少しでも認めてもらえたような気がして。林さんの言葉を聞けたことで、心がとても満たされた。 「今日は礼拝?」 「はい、大学のチャペル委員をしているもので。」 「紺野さんも?私もそうだったよ、学生の時。」 「本当ですか?わあ先輩ですね。嬉しいな。」 「ふふ。先輩も先輩だね、大学三年生から見ると私なんてさ。」 「あ、いえ、そういう意味じゃあ。」 林さんはおかしそうに笑った。 「あっはっは、良いのよ、勿論。私、来年は大学に移るしね。」 「ええっ、病棟お辞めになるんですか?」 「うん、大学で教えるわ。」 「それは病棟にとっては大損失ですね。」 「うふふ、ありがとう。でもそんなこと無いのよ。下がしっかり育ってるから、安心なの。だからでも、紺野さんが就職した時には会えないね。」 「そうですね。でも来年、学内では会えます。」 「そうよね、遊びに来てちょうだい。」 「いいんですか?」 「もちろん、あなたなら大歓迎よ。」 「わあ嬉しい。絶対に伺います、私。」 「うん、待ってるね。」 「はい。あ、じゃあ私席あっちなのでそろそろ。」 「うん、礼拝始まるもんね。」 私たちは笑顔で別れた。心が温かい。私も林さんみたいなナースになりたいな。
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