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中央通りはまばゆいばかりにきらめいていた。様々なイルミネーションが透明な空気の中で輝いている。重なり合う色と色、光と光。大好きな山野楽器からはクリスマスジャズが流れている。ちょっと立ち寄ろうとしたら、ワゴンから声をかけられた。
「先輩、紺野先輩じゃないですか?」
どう見てもワゴンしか見えなかったから、私はびっくりして立ち止まった。するとワゴンからサンタの衣装の男の人が立ち上がった。私より少し年下かな。
「先輩、わかりませんか、青南卓球部の佐藤です。」
「ああ、えっ、佐藤?ほんとに佐藤?」
私は私よりずっと背の高いその男の人を見つめた。そうだ、たしかに佐藤はこんな顔立ちだった。今も変わらず少し照れたように笑っている、私が守った色白できゃしゃな佐藤。
「あんた、背伸びたね。信じられないくらい。」
「あはは、やっぱりそこですか。久しぶりに会う人会う人、みんなまずそれを言うんで。」
「だってあの頃、私よりちょっとしか背高くなかったよね。」
「ですね。なんでか知らないけど、あれから高校卒業するまでの間に急激に伸びたんですよ。」
「そうなんだ。男らしくなったね。素敵になったじゃん。すぐにはわからなかったよ。」
「先輩はすぐにわかりましたよ。」
「ありゃ、それはそれは。20にもなって高校時代と変わらないとはね。」
「相変わらず綺麗だってことですよ。」
「…佐藤、あんた本当に変わったねえ。そんなことをサラッと口に出すようになったなんて。」
「あの、」
そこで初めてサンタの佐藤の横に立っている、小柄なサンタに気づいた。挑むように見ている女の子のサンタだ。
「ああ、歌織、ごめんごめん。先輩、僕の彼女です。」
「山上歌織です。佐藤くんと同じ大学です。」
「紺野麻です。佐藤とは青南で部活の先輩後輩でした。」
「知ってます、律くんのあこがれの先輩ですよね。」
「ちょっ、歌織、何言ってんの。」
焦って赤くなるところは変わってないな、高校時代から。
「そうなの?知らなかったけど。」
「紺野さん、よく律くんを他の男子から守ったって。」
「守ったって、まあそうか。その頃の佐藤は小柄だったし、私と夏合宿最後の混ダブをやんなきゃならなくなって、ともかく結構色々言われたりしてたのよね、男子から。私そう言うの大嫌いだから、注意とかはしてたかも。でも大したことじゃないのよ。」
私はまだ挑戦的なまなざしでこっちを見ている彼女に微笑んでみせた。あんた落ち着きなさいよ、彼の前でみっともないわよ、と念を込めて。
「いや、もう歌織いいから。ともかく紺野先輩にはお世話になったって、それだけだから。」
「そうそう。でもあんた本当に育ったね、可愛い彼女まで出来て。」
「育ったって、先輩。でも会えて良かったです、本当に。」
「そうだね、クリスマスの魔法かもね。じゃあね、お幸せに、佐藤、歌織さん。」
手を振って別れた、クリスマスソングを聞きながら。そうか、あの佐藤が。変われば変わるもんだわ。あれならモテるだろうな。高校の時は、私の後をついて歩いて、部外のゴールドにも、カルガモちゃんとか、からかわれてたけど。その度に真っ赤になってたっけな。でも彼女の方はすごく気が強そうだった。上手くいってるのかな、それならいいけど。
クリスマスは思ってもみない出会いがあるなあ。さてと、日比谷線に乗って帰ろうかな。でももう少しイルミネーションを見ていたいから、日比谷まで歩こうか。お堀端で道が急に開けるのが本当に気持ちいいから。何だかあの景色を見るだけで、人生に向かう決意が固まる気がする、いつも。そう決めて晴海通りをずんずん歩く。今頃まりはデートだな。じゃあ、お母さんが一人で待ってるだろうから、早く帰ろう。お父さんは仕事で遅いだろうし。電話をしてクリスマスケーキを買って帰った方がいいかも聞こう。帰る家があるのは、幸せだ。
私は携帯を取り出した。
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