3.近藤鹿之助

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3.近藤鹿之助

「ディー、あんたちゃんとサンタさんにプレゼントのお願いしたの?」 「うん、書いた。」 「何お願いしたの?」 「秘密。」 「秘密?」 「うん。だからイヴに枕元に出しとく。それまでは隠しとく。」 「あらまあ、国家機密ばりだわね。」 お母さんは笑って、僕の肩をポンポンと叩いた。居間には僕の背の高さのツリーが飾ってある。昨日、オーナメントで飾りつけをした。お姉ちゃんは、 「もうツリーって年じゃないから、あんた全部やっていいわよ。」 と鼻で笑った。中学に入ってから、急に大人びたお姉ちゃん。中学校ってどんなところなんだろう?時々、しめられるとか怖い話を聞くけど、でもお姉ちゃんを見ているといつも楽しそうに行ってるから、きっと大丈夫だよな。 「さあ、ご飯食べましょう。今日、パパは当直だから三人。」 「ええーっ、パパまたなの?最近当直ばっかじゃん。」 「あれ、そうだっけ?」 「ママ、覚えといてあげなよ、パパのスケジュール。」 お母さんはあははと笑って、お姉ちゃんのお皿にカリフラワーを一つ追加した。 「ママー、ひどすぎる。」 「いいの、いいの、ビタミンCはこれからの季節には必要よ。お肌にもいいのよ。」 お姉ちゃんは最近ニキビのことをひどく気にするようになったから、お肌と言われると何でも受け入れる、ように見える。 「お父さん、イヴには当直入らないよね?」 「ああ、今年は土曜日だから若手が入ってくれるわよ。大丈夫、うちにいるわよ。でもどうして?」 「みんなでお祝いしたいから。」 「ディー、あんた相変わらず優しいわね。ねえ、ママ。」 「うん、ディーは素直だし、ほんといい子だよね。」 そう言って頬ずりしようとするから、飛びのく。 「あら、なに?」 「あはは、さすがのディーでも、もう小四だもん。恥ずかしいんだよね。」 「あら、じゃあ佳乃(よしの)にしちゃおうっと。」 「もうママ。わたしだって中学生なんだよ。」 「ちぇっ、振られた。やっぱりパパじゃなきゃダメだなあ。」 「うえー、そういうことを堂々と子どもの前で言うかね。ねえ、ディー。」 「えっ?うん、でも僕もお父さんいないと寂しいし。」 「だよねえ。パパはスペシャルだよね。初めて会った時さ、夢じゃないかって思ったもんね、彼と一緒だったていうのに。もう目がフィクスしちゃってさ。」 「理想が歩いてる、でしょ?もう何百回と聞いたわ。ERでパパがママの彼を助けてくれて、ママがいちころになったって話。」 お姉ちゃんがカリフラワーを箸で嫌々つまみながら言う。 「あら、そう?でも何度言ってもうっとりしちゃうのよね。本当に素敵なのよねえ。患者さんに笑いかけてるところなんてさあ。」 「もう、わかったから、ママ。恥ずかしくて食事が進まないから。」 お姉ちゃんは照れ隠しに、わざと乱暴に大切りのカリフラワーにかぶりつく。 でも、僕は気づいちゃったんだ。お母さんは本当は寂しんだって。お父さんは激務続きで、一週間に二回は当直が入るし、休日だって必ず一回は病院に顔を出す。 「救急医は命の最前線だから休めないのよ。」ってお母さんがよく言ってるけど、それは自分に言い聞かせてるみたいだ。 だから、イヴとクリスマスには絶対救急の呼び出しが来ませんように。僕はそれを書いたんだ、サンタさんに。
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