奇跡の商品開発

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奇跡の商品開発

 一人の不精な男があった。彼は100円ショップの商品開発部所属である。 彼は身の回りには無頓着で仕事場のデスクも整理整頓がなされておらず、パッと見ゴミ捨て場にしか見えない。 そんな彼がデスクを引っ掻き回して何かを探していた。隣の席の同僚が彼に尋ねた。 「あの、何かお探し?」 「ノーパソ、去年までの売上推移のデータどこだったかなって。多分、俺のパソコンの中だとは思うんだけど……」 二人で机を引っ掻き回すと、山積した本や書類の奥深くにノートパソコンを発見した。 不精な男はノートパソコンの天蓋を開いた。その瞬間にムワッと埃が舞い上がる。埃が鼻から入った二人はゲホゲホと咳き込む。 「うわ、キーボードが手垢塗れだよ」 「いちいち拭いてらんねぇしな。カバー付けてもカバーが汚れるだけだし」 不精な男は濡れティッシュでキーボードを拭いてみた。しかし、キーとキーの隙間の手垢と埃まではとることが出来ない。むしろ濡れティッシュの水分で手垢と埃が固まり、キーとキーの隙間に滑りこんで奥に入り込んでしまった。 「汚ねえな」 不精な男は困ったように頭をボリボリと掻いた。フケがボロボロとキーボードの上に落ちる。オフィス用の黒いノートパソコンを使っているためにフケが目立ち埃も相まって余計に汚らしい。 すると、一人の女子社員が不精な男の元に新商品を持ってきた。 「あの、今度の新商品なんですけど」 「ん? 何だっけ?」 「スライムくんです」 彼女が持ってきたのは「スライムくん」100円ショップの玩具の新商品である。それはゼリーを入れるようなプラスチック容器に入れられていた。色は蛍光色の黄色いもので、夜中でも光ることが売りのシリーズ商品である。 スライム。ゲル状の魔物…… ではなくポリビニルアルコールと水を混ぜ合わせて作るゲル状の玩具である。元々はどろどろしたもの、ぬるぬるしたものをさす言葉(泥やカタツムリの粘液など全般)。 所謂、子供が手で触ってぬるぬる感を楽しむためだけの玩具。
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