奇跡の商品開発

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「ああ、もう出来たの?」 「ええ、今度の新作は水分控えめで硬めなんですよ。ドロドロして絨毯にくっついたって苦情を受けてこうなったそうです」 「全く、絨毯の上でスライム遊びなんてするんじゃないよ。これだからクレーマーは……」 「ホント、そうですよね。苦情のせいでスライムのドロドロもそこそこになっちゃって崩れない水まんじゅう状態ですよ」 女子社員はスライムくんの容器の蓋を開けてそれを摘み上げた。これまでのものは触って持ち上げるだけで うにょーん と、伸びて薄い膜のようになったのだが、今回はスライムの感覚こそそのままだが、あまり伸びることはなくブチンと切れてしまった。 「なんじゃこりゃ、伸びないじゃないか」 「これが絨毯や毛布に絡みつかないギリギリの柔らかさを維持する水分量だそうです。これからスライムくんはこれがスタンダードになる予定です」 「開発部に言っとけ『こりゃ駄目だ』って」 「え?」 「子供っていうのは手にネチャネチャと絡みつくのが面白くてスライムを触るんだよ。硬いと面白くねぇんだ」 「でも、絨毯を汚したくない親御さんの苦情を考えると……」 「知らねぇよ! 大人のために玩具作ってるのか!? 違うだろ? 子供のためだろ! スライムは現行の柔らかさのまま維持! よく言っとけ!」 「え…… あ…… はい…… 一応これ、サンプル置いておきますので」 女子社員は不精な男の僅かに空いたスペースに「スライムくん」を置いた。不精な男はそれを手に取りじっと眺めた。 「こんな伸びねぇスライム売れねぇよ…… ウチの商品開発(化学担当)も何を考えているやら」と、言いながらそのまま机の上に「スライムくん」を置いた。 その後、不精な男は商品開発の会議を三件梯子した後、自分のデスクに戻ってきた。その頃には深夜を回っており、疲労困憊状態。寝ぼけ眼で見たものは整理のされていない机、多少は掃除しようと思ったのだが、眠くて話にならない。 「誰か、掃除しといてくれないかなあ」 不精な男はそんなことを呟きながらオフィス椅子を三つ並べ、その上で眠りに就くのであった。
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