奇跡の商品開発

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不精な男は自分のデスクを見回した。相変わらず整理整頓のされていないゴミ捨て場を思わせる状態であった。 「されてないじゃないですか。神様が嘘吐いちゃいけませんよ。ステュクス川に流されて死んじゃいますよ」 「西洋の地獄に流れる川の話じゃろ! そんなものは西洋の神だけの決まりだ! 日本の付喪神の儂には関係ない! それに嘘は吐いておらぬわ!」 無駄にギリシャ神話に詳しい付喪神だ…… 実はギリシャ神話の神々の末端クラスの精霊なんじゃないだろうか。もしくはギリシャ神話の世界観が生きている異世界から転移してきたスライムかもしれない。不精な男がそんなことを考えていると、付喪神は叫んだ。 「話の腰を折るでない! その! お主らが『のおとぱそこん』と呼んでおる天耳通(てんにつう)を成す平たい箱に窓を鍵盤をつけたもの! 手垢や埃やフケで汚いから我が身を穢してまで掃除をしてやったのだぞ!」 今度は天耳通(てんにつう)なんて仏教用語まで宣ってきたぞ…… この付喪神。本当にどこの国の神様かわからなくなってきた。それはともかくとしてノートパソコンの掃除をしてくれたのか…… 確かに掃除をしてくれとは願ったが、まさかノートパソコンの掃除のみとは叶えてくれる願いがどこかショボい。神様ならパッと綺麗に掃除をしてくれればいいものを。この神様、大した力を持っていない付喪神だ…… 不精な男は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。 「確かに綺麗にはなってましたけど…… どうやって掃除をしたんですか?」 「うむ、よくぞ聞いてくれた。刮目せよ!」 キーボードの上でぷよぷよと雄弁に語っていた付喪神はいきなりその身をだらぁりとさせ、キーボードの上全体を巡るようにころころと転がった。そして、うにょうにょと言ったSEを上げながら元の水まんじゅうを思わせる形へと戻っていった。 「どうだ! 鍵盤が綺麗になっただろう!」 確かにキーボードは綺麗になっていた。つい先程までついていたフケと髪の毛が綺麗サッパリとなくなっていた。 「昨日が一番大変だったぞ! 数年分の手垢と埃を取るのに手間取ったわい! 鍵盤の『きぃ』と『きぃ』の間の隙間に入るために体を押し込んだりしたんだからな! 感謝せいよ!」 全く…… やってることはただのお掃除スライムじゃないか。不精な男は呆れるのであった。100円ショップであれば、パソコンのキーボードの上に乗せて掃除をする清掃用のクリーニングジェルを売っている。似てはいるが玩具と清掃用具、勝負にもなるはずがないと考えていた。 それが自動(オートメーション)化されたところでどうしようもない…… 基本、パソコンの掃除に割く時間は僅か。自動(オートメーション)にするまでもない作業量だ。 それに、こいつ以外が付喪神になるとは限らない。そんなことを思いながら彼は付喪神を摘み上げた。
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