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胡蝶の声は、60歳を過ぎた嫗の声とはとても思えぬほど声に艶がありました。
声量はさほどありませんが、大勢の人の中でもよく通ります。
「下毛野金時どの、これなるは因幡から来た真神と申す鬼神じゃ。使うてやって下され」
武人は眉毛を上げ、「ふむ」と音を立てて、鼻から息を吐きました。
「その山犬が、鬼神であるか。でかいな。まるで脚の長い熊のようだ」
戦場で鍛えたのでしょうか。
声がまるで遠雷のようにごろごろと、低く腹に響きます。
金時は腕を組んだまま、首を傾げて、眉根を寄せました。
「ところで、胡蝶どの。山犬の鬼神は口が利けるのだろうか?」
山犬は低く唸ったあと、鼻面にしわを寄せて口を開きました。
「直接、吾に聞いてもらって構わぬ。下毛野金時どの」
武人は目を丸くしました。
組んでいた腕が緩み、体の両脇にだらりと下がります。
「やあ、喋ることが出来るのだな、お主……真神どの。それは重畳。菅原様に紹介するにも、口が利けるのとそうでないのとでは、大違いだからな。それにしても鬼神と異人が助けに来てくれるとは、心強い」
彼は胡蝶の方を向きました。
「ところで、胡蝶どの。異人の方はどこじゃ?」
胡蝶は異人・トオルと因幡真神の奇妙な間柄――主人と鬼神が同じ体を使いまわしている――について、語ります。
その間、山犬は神社の狛犬のように座った姿勢で、じっとしていました。
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