飯綱使い 壱

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菅原氏の一行は100人もの人が行列をなして移動する、大所帯です。 遅れて上総(かずさ)国国府を出た者や、「いまたち」から荷を運んできた者どもが「いかだ」に集まると、草ばかりで何もない土地が急に賑やかとなりました。 「さあ、ゆっくりはしていられないぞ。今日は『くろとの浜』に泊まり、明後日には松戸 (まつさと)で川を渡るのだ。ゆめ、遅れるなよ」 金時は、「遅れたものは平氏の餌食になるぞ」と脅し、すぐに呵呵大笑しました。 荷運びの人夫どもは、我先にと他人を押し除けて先を急ぎます。 「吾が耳にしたところでは、マサカドと名乗る平氏と、飯綱使いどもがとにかく恐ろしいということであった」 平将門(たいらのまさかど)とは、今から80年も前に東国で乱を起こした武将です。 謀反人として処刑されましたが、坂東の武者にとって、その名は未だに畏怖の対象でありました。 今、「マサカド」を名乗っているのは、下総(しもうさ)相馬郡(そうまぐん)に本拠を置く、平氏の村岡五郎なる男です。 祖父の平良文の代から広大な所領を有しておりましたが、近年は武力によって坂東を討ち従えんばかりの勢いを見せておりました。 マサカドは異人にも似た異能力者、「飯綱使い」を何人も従えています。 欲しいものがあれば弓矢で奪い、気に食わぬことがあれば飯綱使いを差し向けるという、傍若無人の振る舞いで人々に恐れられていました。 「吾ら鬼神に比べれば、飯綱なぞ敵ではない。下毛野金時に敵う武人もおるまい」 飯綱使いは「飯綱」という異能を持っておりまして、自らの肉体の一部を他の生物や物の怪に変えることが可能であるということでした。 鬼神のように自ら意志を持って行動するわけではありませんし、(くう)から生み出されたわけでもありません。 人である飯綱使いの体が土台ですから、鬼神ほど強い力は持ち得ないのでした。
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