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菅原高標の女、月姫は13歳の少女です。
3年前、父の上総国国守に赴任に合わせて、家族とともに東下してきました。
その際に父親よりも年上のマサカドに見初められ、以来、しつこく「嫁にくれ」と言い寄られております。
京の公家衆の間では、年端もいかない少女を愛でるというのが流行っておりまして、村岡五郎もその真似がしたかったのかもしれません。
彼女が今日まで無事であったのは、今日から遣わされた下毛野金時の武力と、鬼神・鬼蜘蛛の助けがあったからでした。
マサカドにとっては菅原氏の任期が明け、京へ帰る旅の途中が貴人の娘を我がものにする最後の機会でした。
軍を興して貴族の姫を奪えば、さすがに朝廷が黙ってはいないでしょう。
年ごろ、租税も納めず貴族の荘園などを好き放題、襲い奪っているという負い目もあります。
そこでマサカドは飯綱使いに姫を拐かすように命じました。
乱暴者の「鬼綱」という男と、気は弱いが力持ちの右弥太という少年が菅原氏一行の隙を窺っているのです。
「胡蝶は、それを予見した。だからこそ吾らが招かれたのだ」
胡蝶は歳のせいで、国守一家の旅に同行することは出来そうにありません。
東国の地には、彼女のほかに異人は一人しかおらず、それも足柄で遊女をしている者でした。
さすがに遊女を上京の旅に加えることは出来ません。
トオルと因幡真神が東国へ招かれたのには、そうした理由がありました。
菅原氏の一行は「太井川」を渡るため、「くろとの浜」から、松戸へ向かいます。
背後に、飯綱使いの鬼綱と右弥太が迫りつつありました。
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