鬼神の探求

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困りごとと申しますのは、常陸(ひたち)(のくに)(たいら)(なにがし)が月姫様を妻にしたいと願い出たことにほかなりません。 父君の菅原氏は当然、平某の申し出を断りましたが、相手は坂東(ばんどう)で強い勢力を持つ武士でした。 近頃では大叔父にあたる平将門(まさかど)の名を騙り、力ずくで他人の土地や所有物を奪ったり、朝廷への年貢を納めなかったりと横暴の振る舞いをしております。 今年の秋9月、菅原氏は国守の任期が明け、京へ上ることになりました。 菅原氏は源次綱こと渡辺綱(わたなべのつな)に協力を仰いで、下毛野金時(しもつけのきんとき)という智勇に優れた武人の警護を得ましたが、胡蝶はまだまだ不足だと考えていました。 彼女は遠く風の噂で、幼なじみの異人・仁王丸が故郷の長になっていると聞きまして、鬼蜘蛛を遣わして助けを求めたのです。 「牛馬ほども大きな雌の蜘蛛だ。そやつが樹上から(おのれ)を見つめていることに、トオルは気がついた」 祖母のため、毛皮の敷物でも作ってやろうと、山で狩りをしている最中でした。 トオルはまだ16歳ですが、異人であった仁王丸を祖父に持ち、異人で部落の長でもある父を持っておりましたので、鬼神や妖怪変化の類には慣れています。 鬼神である鬼蜘蛛が主人のもとを遠く離れて、祖父の仁王丸を捜しに来たことの重大性を十分に理解しておりました。 何やら知らず、一大事が東国で起こりそうだという情報に、少年の胸は踊ります。 「吾もついに外へ出る刻が来たと、主人の胸の中で小躍りしたものよ」 あいにく部落の長は他所へと出掛けており、いつ帰ってくるか分かりません。 トオルは鬼蜘蛛の望みどおり、祖父母の家へ連れて行きました。
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