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トオルは平某に狙われているという月姫さまを助けるため、東国に行きたくて仕方ありません。
深く考えず、一も二もなく祖父の提案を受け入れました。
「あの翁は、吾が孫の中に居ることに、とっくに気づいていたのかも知れん」
祖父の仁王丸は手首から先のない左手を、ずぶりとトオルのみぞおちのあたりに突き刺しました。
失われていたはずの鬼神・守天の力を使い、孫の胸に眠っている鬼神の力をつかみ取ります。
見えない手でつかんだ鬼神は豆粒ほどの大きさしかない山犬でしたが、鬼の力でも長くは捕らえておけないほど、ひどく暴れました。
解放すれば、主人であるトオルを襲うかも知れない。
それでも良いか? という祖父の問いに、トオルは答えます。
「俺は鬼神の力を手に入れて、東国へ行く」
彼の「放て」という掛け声と共に、仁王丸は見えない鬼の手を開きました。
鬼神・因幡真神は大口を開けて襲いかかります。
「二つのものが一つになるのだから、吾が表に出るときは主人が奥に引っ込むのは自然の理ぞ」
トオルは6尺(180センチ)を超す大男ですが、その体は熊と見間違うくらい大きな山犬の姿に変身していました。
彼自身の意識は黄泉まで届くのではないかと思われるほど深い穴を落ちて行き、底を打つ前に気を失っていたのです。
そうしてトオルは半月近く、山犬の中で眠ったまま過ごすことになりました。
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