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先ほど、とんでもなく急な階段、と言ったが。どうやら此処はW市でも有名な名所であるらしく、別名“千階段”なんて呼ばれているらしいのだ。階段の上から下を見下ろすと、ぽつぽつと点在する該当に頼りなく照らされるばかりの真っ暗な階段がどこまでも続いているのが見えるのである。
流石に千段、はないだろうが。それでも百段くらいはありそうな急勾配の長い階段だ。しかも夜は暗くて足下が非常に見えづらい。手すりに捕まりながら“降りる”だけでも体力を消耗すること必死だろうに、それを“登る”ともなるどどれほど疲れることか。
それでも、丘の上に家があるとか、どうしてもこちらに来なければいけない人間にとっては嫌でも登らざるをえないのだろうが。
――まあ、子供とかだと面白がってチャレンジする奴もいるのは知ってるが。……この足音、ガキじゃねえな?つか、夜の十時にガキが出歩いてちゃ駄目だろうしよ。
段々と、こちらに向かって登ってくる人間の姿が見えた。俺はそっと、近くの植え込みの影に隠れることにする。別に隠れる必要はないかもしれないが、なんとなく自分が見ていることがバレない方が面白そうだと思ったのだ。
その人間は、ひとりではなかった。二人、三人、四人――四人の男女だ。女一人に、男が三人。女以外の三人は、何やらスーパーの袋のようなものを重そうに抱えていた。
階段を下った下は大通りになっていて、大きなスーパーもその道に面している。そこで買い物をしてきたのだろうか。最近はスーパーの袋も有料になってしまったこともあり、ロゴを入れていないところもあるので袋だけでは判別がつかなかったが。
「ちょっと、早く登りなさいよ!男のくせにだらしないわね!」
男女は全員、二十代半ばくらいであるように見えた。最後尾の女性がガミガミ言いながら、前を歩く男三人をせっついているらしい。
「何のためにこんな面倒くさいところまで来たと思ってんのよ!ほら、早く早く!」
「勘弁してくれよ、リエ……!お前と違って俺達は重たい“荷物”持ってんだよ。文句言うなら代わってくれよお」
「は?女にソレ持たせるつもり?それでも男なの?はあ?」
「……うう、ナンデモナイデス……」
なるほど、女王様とその下僕三人、という構図らしい。彼女の言葉に、男三人は全く逆らうことができないようだった。男達はひーひーと言いながら、重たそうなスーパーの袋を両手に抱えて一生懸命階段を登っている。
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