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何をそんなに大変そうに運んでいるのだろう。俺は少しばかり階段横の丘をそろそろと降りて、真横から男達の荷物を観察した。パンパンに膨れたスーパーの袋は、何やら結露している様子である。つまり、中に入っているものは保冷剤などの冷たいものだということだ。ビールでも大量に買い込んできたのだろうか。
――この先で飲み会でもするってか?……いや、それはさすがに妙だろ。
彼らは俺の存在に気づかず階段を登りきると、暫くそこで息を整えていた。偉そうにガミガミ言っていた“リエ”という女も疲れてはいたようだが、それでも荷物がなかった分元気であるのか、男達三人をせっついてすぐに歩き出すように促している。
「ほら、さっさとしないと朝になっちゃうじゃない!」
「で、でも疲れて……」
「何?あたしに文句あるの?」
「ううう……」
何でこんなに偉そうなんだこいつ。俺は呆れつつ、四人の後ろをそっとついていったのだった。彼らは俺が管理している土地の方へと歩を進めていく。まるで辺りを気にするように、周囲をきょろきょろと見回しながら。
――どういうこった?……そこで飲み会なんかするわけないだろ、いくらなんでも非常識だ。
おかしなことだらけだった。
昔はマンションが建っていたという、この広い土地。今はマンションはなくなって、別のものになっている。人間の住む家も近くに点在してはいるが、非常に数は少ない。あんな若い男女がパーティを行えるような施設があるとも思えないし、この近隣の戸建に住んでいる連中はみんな顔見知りだ。彼らは初めて見る顔である。此処に住んでいるとは到底思えない。
そして、連中がずんずん進んでいったマンションの跡地にある“別のもの”。
それは俺が管理人をしている“墓地”だ。
こんな真夜中に、大学生か新入社員くらいの年齢の男女が数名揃って何をしに来たのだろう。まさか、肝試しをするような年でもあるまいに。
――なんだなんだ?
彼らは墓の一つの前に行き、ごそごそと作業している様子だった。墓参りにしても妙だ。しかし、細かく確認できそうな距離まで近づくと俺が隠れているのがバレてしまいそうである。周囲を警戒していた様子だし、見つかったら何をされるかわかったものではない。
「さっさと終わらせなさいよ。明日の夜も来なくちゃいけないんだから!」
「へーい……」
彼らは明日も来る、とのこと。
俺は決意する。とりあえず、明日明るくなってから、件の墓の周囲を観察してみよう、と。
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