階段の上の管理者

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 実は、基本的には墓石がごろごろと立ち並ぶ中、男女が何か作業をしていた一角は少し特別な形態を取っているのである。墓石ではなく、四角く区切られた場所に小さな苗木が植えられているのだ。その前には、故人のものと思しき“逢坂スエ”という名前が入ったプレートがちんまりと掲げられている。 「樹木葬の場所か、なるほどな」  ふむふむ、とケンジじーさんは楽しげに頷いた。 「樹木葬というのはな、墓石の代わりに木と植えることで目印にするというやり方で、最近はこういう墓地も増えているらしい。墓石よりも安価で、かつ骨壷を埋めるための小さなスペースで済むのが楽なんだそうだ」 「へえ」 「必ずしもそういうわけではないが、安価で済むということはつまり、金がない人間が選ぶことも多い墓だということ。もっと言うと、墓を守っていく他の家族がいない故人のための個人墓、永代供養のための墓として選ばれることも多いとして知られておるのだ」  最近ボケてきたと思っていたが、なるほど昔ながらの博識ぶりは健在であるらしい。それで?と俺は続きを促す。 「此処に一人分の名前しか書かれておらんようだし、個人墓と見てまず間違いあるまい。加えて、故人の名前は“逢坂スエ”。まず間違いなく高齢の独居女性のお墓であろう。……恐らく、墓参りに来る人間も殆どおるまい。ということは、多少墓に異変があっても、気づく人間は少ないということ。例えば……このように少しばかり、土が荒れていたとしてもな」  言われてみれば、樹木の目の前の四角いスペース。骨が埋めてあるであろう土の部分が少し荒れている。まるで、つい最近掘り返されたかのような。  おいおい、と俺は思う。まさかこの間の男女は昨夜、この墓を掘り返していたとでもいうのか。一体どうして、何のために。 「死体に用があったのではなく……骨壷にでも用があったのだろう。臭いを嗅いでみろ、僅かに血なまぐさい臭いがすると思わんか」  保冷剤を大量に詰め込んだ袋。  人がまず墓参りに来ないような個人墓地。  生臭い臭い、ともなれば。 「この下に、故人がもう一人増えているということだろうな!まあ、故人の“一部”と考えるべきであろうが」 「だからなんでそんなに楽しそうなんだよじーさん!!」  思わず俺は、その場で絶叫したのだった。
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