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階段の上の管理者
この土地の管理人を俺様が始めた理由は単純明快。この場所から見下ろす夜景が最高にイカすからだ。
W市というやつはどうにも坂が多いということで有名らしく、俺が今“管理”しているこの土地もまさにその例に漏れなかったりする。俺様の家は、まさに小高い丘の上に存在しているのだ。駅がある方向から歩いて来ようとすると、とてつもなく長い坂を登るか、とんでもなく急な階段を登るかのどちらかをしなくちゃいけないのだ。
昔は大きなマンションが建っていたらしいが、立地が悪かったのかあまり人が入らず、結局その後施工不良が見つかったとかなんとかですぐに潰れてしまったらしい。そりゃ、こんな毎日足腰鍛えないといけないような場所、多少安くても好んで住みたがるモノ好きは多くないだろう。駅からも微妙に遠いし。まあ、近所に住んでるケンジじーさんの言葉だから、どこまで本当かはわからない。あのじーさんも年食ってだいぶボケてきていると知っている。
――ま、おかげで俺は、この静かな場所をのんびーりと独占できるってなわけなんだけどな。
夜、ひとりで家の前の公園に行き、そこのベンチでまったりすごすのが俺のお気に入りだった。
長い階段を登りきった場所に位置するその公園のベンチからは、まさに夜の町が一望できるのである。まるで地面に星屑が散りばめられているようだった。向こうには、駅に向かうべくスピードを落とした武蔵野線がゆっくり線路を進んでいくのもよく見える。夜の十時くらい。ラッシュ時刻を過ぎた今の時刻、電車に乗っているのはくたびれたサラリーマンやOLがメインだろう。金曜日や土曜日ならば比較的元気なよっぱらいが乗っていることもあるが、生憎今夜は水曜日だ。まだまだ明日も仕事がある、という社会人の方が多いに違いない。
――毎日毎日、ご苦労さまなこった。あんな忙しくて面倒な仕事やっても、大した金稼げないなんて本当に世知辛いぜ。あいつらも、俺みたいな仕事が見つかればいいのによ。
毎日家でのんびりし、土地の管理人を勤めれば生きていくのに充分な報酬が貰える。夜に独り占めできる夜景はまさに絶景。こんな俺に向いた天職はない。
今日も俺様の世界は平和だぜ、なんてことを思いながら欠伸をしていると。階段の方から、ゆっくりと足音が響いてくるのが聞こえた。どうやら、こんな時間に誰かが駅の方から階段を登って来ているということらしい。
「なんだなんだ?」
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