神様お願いします

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 時代が何度と変わろうとも、神頼みが後をたたないのは、世の常というもの。その願いは千差万別、十人十色。学業成就に家内安全、良縁祈願に商売繁盛。物騒なところでは丑の刻参りも神頼みだ。  悩みの数だけ神様がいるのがこの国のいい所なのだろうか。日本全国、津々浦々に神社仏閣は散在し、それぞれ得意分野もちゃんと分かれている。  地味な神社でも、捨てる神あれば拾う神ありで、誰かしら参拝にくる。  そしてこの神社にも、一人の悩める青年がやってきた。 ** 「神様、神様。どうか神様お願いします」  大きく柏手(かしわで)を鳴らし、(こうべ)を下げる若者は原田雅也と言った。歳の頃は二十代半ばほど。くたびれた紺のスーツからは疲労の色は窺えど、若々しさは微塵も感じない。  使い込まれたビジネスバッグと重そうな紙袋を石畳に置き、原田はしつこく柏手を打つ。 「聞いてくださいよお神様。今時ね、紙の資料で提出なんてあり得ないれしょ? タブレットじゃあ、目が疲れるからって言うから、僕がね、全部紙で資料を出したのに、“多いな”の一言で終わりれすよ。ひっく。最初からの流れを見ておきたいって言ったのアイツですよ? それなのに“君は纏める能力ないのか”って、酷くないれすか? 僕だって本気出せば、数枚で纏められれれますよ。全く、あんな取引先に当たっちまって、本当に僕はついてないんれす」  呂律の回らない舌で長く口上を述べているが、そのほとんどが仕事の愚痴だった。おまけにぷんと香るのはその前に引っ掛けてきたアルコール。 時刻は午前0時に近い。こんな時間の神頼みは、大概恨みつらみの愚痴流しだ。  ここの神様も聞いているのかどうなのか、社の門はぴたりと閉じている。冷たい風がどこからともなく吹いてきて、原田はぶるると身震いをした。 「神様、今日ね、僕ね。ひっく。今日は家に帰ったら、この資料の、変更した所と、重要な所と、僕が主張したい所と、お勧めしたい所。いいですか、それを、ぜーんぶ! 全部ですよ? 全部に、蛍光ペンで色分けしてライン引かないといけらいんですよ。面倒くさい! あ、やるよ? やりますけどね? でもさ。それ、ちゃぁんと読んでくれるんれすかって話れすよ。僕がやったの、ちゃんと見るんれすか⁉︎ ねえどーなんでふか⁉︎」
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