阿鼻叫喚のタルタロス

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 約一ヶ月間、中学生達を入れ替わり立ち代りしてぶっ続けで行われるポッド研修。その最終日が終わると、自分達は楽しい楽しい打ち上げが待っている。そこでお偉いさん達に、普段では絶対食べることのできないような高級焼肉に連れて行ってもらえることになっているのだ。  高い酒を浴びるように飲んで、上手い肉をもりもり食べる!これに勝る贅沢はない。 「頑張るぞー!」  先ほどよりハイペースで手を動かし始めたところで、先輩が室内のメンバーにも聞こえるようにラジオを流し始めた。穏やかな声の女性アナウンサーが、ほのぼのとしたニュースを読み上げている。 『NASAが隕石、通称“イークンウッド彗星”の落下を観測してから、もうすぐ百年になります。この彗星の観測を機に、地球には数多くの彗星が確認されるようになってから、イークンウッド彗星が仲間を引き連れてきたようだ、と当時の一般市民の間では話題になったのだそうです。今年ももうすぐルナシ流星群が大量に観測できる時期であることから、流れ星にお願い事をしたい子供達の話題を独占しているとのことで……』 ――イークンウッド彗星か。そういや、そんな名前がついてたんだっけ、あの彗星。  パネル部分にアルコールを噴きかけながら、俺はつらつらと考える。  イークンウッド彗星が観測されて以来、この世界では流れ星を見られる機会が圧倒的に増えたそうな。流れ星が光っているタイミングでお願い事をすると叶う、というのは昔からの定説であるようだし、子供達がお願い事をしようとはしゃぐのも無理ないことであるのかもしれない。  残念ながらと言うべきか、俺はそういったロマンは全く信じていないのだけど。なんせ、彼らよりずっと現実を理解しているのだから。 ――そんなんにお願い事なんかするくらいなら、現実の自分や世界を変えるための努力の一つでもした方が建設的なのになー。……まあ、それで夢や希望が叶うかどうかは別問題だけどさ。  流れ星にお願い事をする。あんまり好きな行為ではない。結局他力本願ではないか。  まるでいもしない神様とやらに、努力もしないで頼りきっているようで。 ――ま。そんなこと……ガキどもの前で口にしようとは思わないけどさ。ロマンとか空想も大事なんだろ、この世界には。
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