阿鼻叫喚のタルタロス

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 彼らはポッドに入って倫理を学ぶのではなく――ポッドの中で毒ガスによって殺害され、異星人に成り代わられているのである。研修を受けていない者達が誰ひとり知らない真実。これこそが、百年前に地球に彗星とともにやってきた我々リオネットVG星人の、実に合理的で平和的な侵略のやり方なのである。  そして、死んだ子供達の遺体がどうなるかといえば。 「よし、“交代”完了!全員遺体をカートに入れろよー」 「はーい」  真っ赤に染まったポッドから引きずり出された中学生達の遺体は、次々とカートに放り込まれていく。彼らの体はけして無駄にはならない。何故なら、地球人の肉は自分達を含めた一部の異星人の間では、高級食材であるとして高い人気を誇るからだ。とにかく栄養価も高く、脂も乗っていて美味なのである。 「はー!いいなあいいなあ。惑星国家グラシスタの方々いいなあ。あれ殆どがあっちの星に売られるんだもんなあー」  俺はじゅるり、と涎が垂れそうになった。その刹那、ついつい油断して首のあたりから触手がぴょこっと飛び出し手しまう。先輩に“変身解けかけてるぞ”、と注意されて慌てて引っ込めた。  いけないいけない。この仕事をやっている間は、自分はちゃんと“地球人の男性”でいなければいけないというのに。 「まあいいじゃねえか、ニキ。俺らは最終日終わったあとで、グランシスタの方々に一部奢ってもらえるんだからよ。焼肉パーティのために今は腹減っても我慢だ、我慢!」 「はーい!」  俺が、俺達がこの仕事を始めた理由。  それは、最終日の後に最高のご馳走が食べられるから。この地球ですでに“入れ替わって”いる異星人は数多くいるけれど、最高級食材である地球人の肉を食べることが許されるリオネットVG星人は、この仕事に携わった俺達くらいなものなのである。 ――やっきにっく!やっきにっく!たっのしみ、だっなー!  できれば、地球人の女の子のレバーが食べられると特に嬉しいのだけど。  そう思いながら、俺は口の中に溜まった唾をぐいっと飲み込んだのだった。
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