雨の日の記憶

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 手伝ってくれたお礼も兼ねて、惣太はエマを近所のフランス菓子店に連れていった。  エマはシブーストを注文した。パイ生地に、キャラメリゼしたりんごと、クリームを合わせたお菓子だ。  サクサクのパイに乗ったふんわりとしたクリーム。ほろ苦のりんご。それを分析しながら食べるエマを見て、惣太は皮肉っぽく笑った。 「エマが主に作ってるのは、フランス菓子?」  惣太の言葉に、エマはニッと口の端を上げた。 「和菓子との融合を目指してるの。先代の頃から何度か『お八つ堂』に来たことがあるわ。今回のプランはたまたま日本の旅行を計画してた時に見つけたのよ」  エマは先代の味を知っている。おまけに同業者(プロ)。ずさんな企画に辛辣な言葉を掛けられたのは当然だ。惣太はきまり悪くなって後ろ頭を掻いた。 「最後に来たのは?」 「二年くらい前かしらね」  惣太が留学したのは25の時。それからパリに4年いて、父のことがあって日本に帰ってから一年。なるほど、会ったことがないわけだ。 「けど、なんでうちやったんや? 京都にはもっと繁盛しとる店もぎょうさんあるやろ」  惣太は、ブリュレの表面をフォークで軽く突きながら何気なく尋ねた。すると、これまで淀みなく答えていたエマが初めて口籠った。 「…………?」  突然の沈黙を不思議に思って惣太が顔を上げると、エマは思い詰めた表情で、小さなショルダーバッグからあるものを取り出した。それを、テーブルに押さえつけたまま惣太の前に滑らせる。 「見て」  その白黒写真を言われた通り手に取り、エマを一瞥してから写真の人物に目を落とす。 「じいちゃん?」  随分と若いが、面影が残っている。生前と同じ作業着で写る、若い祖父の隣には、欧米人の女性。 「私の、祖父母よ」
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