お八つの時間

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 コトン、コトン、コトン。  餡子を混ぜる木杓子の音が、古い作業場(ちゅうぼう)に響く。慣れた手つきで素早く混ぜられた餡は照りを増し、砂糖を含んだ甘い香りが、ふわりと立ち上った。  白川沿いの柳並木道。そこにどっしりと構えるのは、明治21年(西暦1888年)から続く、京都老舗の和菓子屋『お八つ堂』。その三代め店主であり、惣太の師匠であり、また祖父でもある伊藤文六が先月、90歳を目前に亡くなった。
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