新たな扉

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新たな扉

おいしかった……… 悔しいけど! 朝食後ようやく解放された…と、いうか、泣きそうな顔になりながら蒼汰が帰るのを阻止しようとしていた柳田から逃走してきた蒼汰は、自宅に向かいながら柳田が作ってくれた朝食を思い出していた。 エプロン姿の柳田が終始嬉しそうに手際良く作ってくれた朝食は、 バタートースト、ハムエッグ、お手製人参ドレッシング付きのサラダ、コーンスープ、フルーツ付きヨーグルト、そして煎りたてコーヒー‼︎ 美味しかった! 彩も綺麗でハムエッグの火加減も、お手製ドレッシングも、インスタントのコーンスープまで美味しかった。 俺、料理苦手だから朝食はトーストとコーヒーだけの時とかあるし、あんなにきちんとした朝食を食べるなんて物凄く久々だ。 昨日から災難続きだったけど、最後の最後はまだ良かったかな? そんな事を考えながら、マンションのドアを開けると… ‼︎‼︎ 玄関で、昨日、無断外泊をした蒼汰を睨みつける瞳が‼︎ 「ごめん…。確かに言ってなかったけど…、だって連絡しようにもできないじゃん…」 「…」 「はい……。俺だけご飯…食べてきました…。俺が帰ってくるの、待っててくれたんだよね…」 「…」 「本当申し訳ないと思ってる。今日のご飯は豪華にするから許して…」 「……」 怒った瞳の持ち主はフンッと鼻息荒く『仕方ないから許してあげるよ』とでも言うように、チラリと横目に蒼汰見てから背を向け、部屋の中に入っていった。 う"っ…… 怒ってる… そりゃ晩御飯も朝ご飯も食べてないから怒るよな…… 「ごめんって、タマ…」 少し怒りながら蒼汰の前を歩く、艶やかな毛並みの黒猫の後を追いかけた。 原 颯汰(そうた) 25歳。  もし、颯汰の自己紹介カードがあれば、こう書くだろう。 有名女子高校の講師で、彼女なし歴2年。 住まいは学校近くの1LDKマンションに黒猫の『タマ』と仲良く暮らしていて、趣味は読書とネット配信サイトを、とにかく観まくること。 容姿は美少女のように可愛いが、服装は可もなく不可もなくごくごく普通なので、全体的に劇的に目立つまではいかない。 性格は温和で、もし何かトラブルがあっても心の中ではツッコミまくっているが、相当のことでない限り怒らないのが蒼汰のいいところ。 そんないたって普通を愛し、普通に生活し、仕事をし、恋愛してきた颯汰に新しい世界『BL』というものが入ってきて、不覚にも蒼汰はBL界に興味を持ってしまい…………。 「なぁタマ、BLって知ってる?」  お詫びの印にと、高級猫缶を開けてもらい、幸せそうに食べていたタマは、颯汰の問いかけに一瞬食べるのをやめ、呆れながら『はぁ?』という表情を浮かべ、そしてまた食べ始める。 「男性同士の恋愛なんだけどさ、これが結構面白くて。俺がハマったらどう思う?」  颯汰の言葉なんて知らんぷりし続けるタマの姿を見つめると、 「……ミャー……」  めんどくさそうにタマが鳴いた。 「タマもそう思う?意外だろ?俺もハマりそうってのは意外だけど、実はさ、柳田先生の部屋にあった本で、気になる本何作かあってさ、また読ませてもらうってありだと思うか?」 「…ミャ」  タマが短く返事をする。 「『あり』か…。よし‼︎」  颯汰はタマとの会話を切り上げ、鞄からスマホを取り出すと、 『柳田先生、今日か明日、予定空いてる日はありますか?』  メールを打った。  そして、このメールが今後の蒼汰の人生を左右することになっていく…。
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