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絶体絶命 ①
「原先生、原先生、お電話が入っています。至急職員室にお戻り下さい…」
教頭の声で校内放送が鳴った。
え!!
まだ写し終わってないのに!!
どうしよう……。
そうだ!!
颯汰はポケットからスマホを取り出すと、黒板をカメラで撮りはじめた。
とりあえずこれで、後でも書き写せる!
っていうか、初めからこうするればよかった…。
写真を撮り終わると、手渡された本をジャケットの中に隠し、教室を出ようとドアを開けると……。
「わ!!」
「わ!!」
部屋に入ろうとしていた人とぶつかり、持っていた本を落としてしまった。
や、ヤバい!!
落ちた本を拾いあげようとしたが、先にぶつかった人物に本を拾われてしまい、
「………………」
本の題名と表紙を凝視される。
あ"ーーーーーーーー!!!!
「ち、違うんです‼︎柳田先生‼︎これには深い訳が‼︎‼︎」
颯汰は2歳後輩でもある柳田の手から本を奪い取ると、急いでジャケットの中に隠した。
あーーーー!!
泣きたい!
違う!
誤解なんだ!
これは……。
峯岸に無理やり教えられて…。
って、なんて誤解されそうな言い訳。
なんて言えばいい?
誤解されずに、言うのは……。
「あの、その、えーっと……、これは、峯岸のもので……」
颯汰はパニック。自分で何を言っているのか、わかっていない。
「…………」
相変わらず柳谷は、本を凝視し……、
「原先生!!BLに興味がおありなんす!?それなら、そうと言ってくださいよ!!俺も腐男子なんです!!いやー、同じ職場で数少ない腐男子に出会えるなんて」
「……ん?……」
颯汰の頭に『?』マークが飛ぶ。
腐男子?
柳田先生が?
あの、高身長で爽やか系イケメンで、優しい、あの柳田先生が?
いや、イケメンが腐男子でも何ら問題はないけど、そんな様子微塵もなかったし…。
こんなテンション高い先生も見たことない。
というか、俺も腐男子になってる?
「いえ、俺は腐男子じゃなくて……」
颯汰が言いかけたとき、
「あ!!この漫画いいですよね!!濃厚なんですけど、綺麗で。あと、このオメガバース!!泣きますよね〜。両片思いってやつなのに、すれ違い‼︎新作読まれましたか?さらに泣きますよ」
堰を切ったように、柳田が話し続ける。
「この小説は初めて見ました!!いいですか?今日早速買いに行ってきます‼︎どこで買われたんですか?やっぱりジュ○ク堂ですか?あそこ品揃えもBLコーナーも広くて充実してますよね。あ!原先生、今日予定空いてられますか?飲みながらBL話しをしませ……」
「ちょ!ちょっと待って‼︎」
ノンストップで話し続ける柳田の話を、颯汰が止めた。
「これ峯岸の本で、俺は腐男子じゃなですし、それに今日は予定があります」
本当は予定ないけど、予定あるって言っておかないと、飲みに行く羽目になりそうだ。
「!!そうなんですか……」
柳田は驚いた顔をし、そして悲しそうに俯く。
「なんだか誤解させしまって、すみません……」
「いえ……、俺の勝手な勘違いなんで……。俺こそ、変な話して、すみません……」
柳田はさらにしゅんとした。
こんなに凹んだ柳田先生見たことない……。
柳田先生の勘違いからだけど、勘違いさせたのは、俺だし……。
チラッと颯汰は柳田の方を見た。
!!!
柳田先生のうなだれ方が!!
う"………。
俺の中の良心が…
「……。はぁ…、わかりました。今日は金曜で、明日は仕事も休みなので、一緒に飲みにいきますか?」
柳田の凹み具合に負けた颯汰は、大きなため息をつく。
すると、
「本当ですか!?」
眩しいばかりの笑顔で、柳田は颯汰の手を取る。
「!!…は、はい……」
颯汰は驚き、目をパチパチと瞬かせる。
「じゃあ……」
柳田が言いかけた時、
「原先生!!大至急お戻りください!!」
キツイ口調の教頭の声が、校内に響き渡った。
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