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Food chain その2
「こちら、先程、お渡しするのを忘れていました」
彼の手からスッと差し出されたのは、領収書。
あぁ、なるほど…私の引き留めの声で戻ってきたわけじゃなかったのね。
納得。
「あ、どうも~」
もう、この際、領収書を受け取っていなかったからの引き留めだったということにしてしまったら平和よね。そう思いながら彼から差し出された領収書に手を伸ばした。
「『ちょっと、待たれい~』とは、どういったことでしょうか?」
「はい?!」
どう考えても、絶対に『ちょっと~』のような口ぶりは想像もできない彼の口から その言葉を聞かされ、更に理由まで尋ねられた私の指は動揺を隠すことなく大きく跳ねた。
そこ、何故、『ちょっと、待たれい~』を忠実に再現する??
しかも、領収書の件だけでなく、それに反応して戻ってきたと??
もう少しで、私の手の中に収まるはずだった領収書は儚くもヒラヒラと公園の芝生の上に落ちる。
それを、慌てて拾い上げた。
「あ~、いや、なんとなくですね~、お腹空いてないかな~、とか?」
う、完全に思い付き、苦し紛れ。
でも、こういった場合、彼の立場なら、それに このクールさ なんだったら間違いなく『いえ、空いてません。失礼します』って返してくるよね。
「僕のお腹が空いているかどうか、知ってどうするんですか?」
えっつ?!
いや、そこ、そういう風に突っ込むところ??
言い逃れをしてみようと思っていた私は、真面目な表情で私の顔を見ている彼を見ながら、もう、諦めた。
もとい。
腹をくくった。
「だぁかぁら~~、これ…絶対に、おかしいって思ってるでしょ?」
「何がでしょうか?」
「うわぁ、とぼけますねぇ。普通、一人で こんな量を頼むわけないじゃないですか?」
そうなのだ。
私の座るベンチの空きスペース、全てに中華料理、飲茶が所狭きまでに並べてあるのだ。
「別に…。細くても良く召し上がる方も世の中には いらっしゃいますから」
「いやいや、そういう ある意味特殊なケースではなくてですね。
普通なら、これだけの量のお料理を公園指定で運んでたら、推定3~4人ぐらいのグループがピクニックかなんかに興じてるんじゃないかなとかって思いません?」
「そこまで考えてません」
何を言っても、こちらが返して欲しいような反応は一切ナシ。
私だってね、大きく頷きながら同意をして欲しいなんて思ってませんよ。
ただね、本心からじゃなくてもさ、多少なりとも、こちらに寄り添うような返答をしてくれても、いいんじゃない?
でも、暖簾に腕押し。糠に釘。このクールイケメンには全くその気はナシ。
彼から視線を一旦外して、大きく息を吐く。
そして、再度、彼に視線を向けた。
「…そうですか。なんだか、ずっと平行線を辿るやり取りになりそうなので、この内容に関してはもう終わりにします。
とにかくですね、こんな量、私は大食いクイーンでもなく普通の胃袋の持ち主なので食べきれないなぁ…時間に余裕があって、あなたもお腹が空いているのなら、一緒に食べてもらえませんかね?食べ残して捨てちゃうのも勿体ないし」
「つまり。こういった公園で、一人大食いしている姿を曝すのが恥ずかしいってことですね」
「…あなた、クールイケメンな風貌ですけど、絶対にモテないですよね」
図星を刺された私は、せめての返し刀のように彼へ憎まれ口をたたいた。
【その3に続く】
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