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ひこうき雲 その2
今日もいいお天気だなぁ…
あの飛行機は、どこ行きだろう…?
アメリカ?アジアのどこかの国?それともヨーロッパ…
いつものお気に入りの柵のところで、いつものように空を見上げては、飛立っていく飛行機の姿を目で追って、その行き先を想像している。
「あれ、どこに行くんだろうな?」
完全に無防備に空を見上げていた私は、突如、耳に入ってきたその声にビクリと肩を震わせる。
普段、誰も、こんなところにまで来ない。
一体、誰がこの場所に来て隣に立っているのか。
ゆるゆると 頭を声が聞こえてきた方向に向けてみた。
「……!」
声も出ない。
なぜなら、そこにいたのは、あの宮本 一生だったから。
緩やかに吹いている風にストレートの黒髪を軽く揺らせながら、彼は自然体で立って空を見上げている。
「君は、あれ、どこ行きの飛行機か知ってるの?」
恐らくは、目を見開いたままになって突っ立ている私に対して、それを特に気に掛ける様子もなく、フランクな声音で話し掛けられる。
初めて、真っ当に声を聴いた…
そのことが頭の中を占拠している私は、簡単に言葉を出すことも出来ずに、ただ、首を横に大きく振った。
「そっか…君なら、もしかして知ってるかもって思ったんだけれど」
「え?どうして?」
空を見上げていた彼は、かなり驚いた声を上げてしまった私の方に顔を向ける。
一メートルほどの距離で顔を見合わせてしまうことになって、私の心臓は かなり動きが激しくなる。
こんなに間近で顔を見合わせるなんてことも、当然、初めてのことだったから。
「だって、君、いつも この場所で空を見上げてたから」
心臓が止まるかと思った。
それぐらい、私にとっては衝撃が強かったのだ。
なんで?どうして?なぜに?どういうこと?
ありとあらゆる疑問詞が浮かんでは消えていく。
「くっ…!」
彼がいきなり、吹き出した。
え?なぜ?なにが可笑しい?
もう、私の頭の中は疑問詞と謎だらけでパンク寸前だ。
「…ごめん、いきなり女の子のことを笑っちゃうのは失礼だって十分承知してるんだけれど、くくく…」
口ではそう言いながら、笑いを堪えきれないように口元を押さえ、それだけでなく、お腹にまで左手を添え始めた。
そこまで笑われると、一体何が原因かも分からない私には、どう対応すべきかも分からない。
ずっと入社以来憧れの存在だった彼が、目の前にいて話をしているという夢のようなシチュエーションの筈なのに、今の私は一刻も早くこの場から消え去りたい気持ちで一杯だ。
その気持ちが、しっかりと足に伝達されたらしい。
自分が意識するよりも早く、私の二つの足は脱兎のごとく柵から離れてテラスを抜け出そうと動き出した。
途端、グンと後ろ側に体が傾く。
「…え?!」
右腕に感じる、強く掴まれている感触。
背中に感じる硬さ。
もう、何がどうなっているのか、頭の中の処理が追い付かない。
【その3に続く】
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