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ひこうき雲 その6
そよぐ風が頬を撫で、髪を柔らかく揺らす。
晩秋になり、秋らしい高く青色に色づく空は、今日も変わらず美しい。
そして、その青空の中を今日も飛行機がその軌道に白い雲を従えてグングンと勢いよく飛んでいく。
私は、いつものお気に入りの場所でいつものように柵に寄りかかりながら、そんな青空を見上げている。
これまでと、何ら変わることなく。
「…なぁ、鈴木は どうしていつも飛行機を見てるんだ?」
…一人で見上げていたのが、二人になった以外は。
「…特に理由はないけれど、ただ…」
「ただ、何?」
「多分、憧れ。あんなふうに広い空を悠々と飛んでいって、遠い何処かに行けることが羨ましいな…みたいな」
「だったら、自分で飛行機に乗って行ったらいいんじゃない?」
「…それができないから、憧れなの!」
「何それ?」
「高所恐怖症、閉所恐怖症…とにかく、地面から足が離れて空に飛び上がっていくのは、怖いの。悪い?」
「っく、くくく…そんなに躍起にならなくても。別に、全然悪くはないけど。あ、また、一機飛んできた」
「ホントだ…」
あの日…
宮本君から付き合わないか、と言われたあの日。
私は約束の3分以内に、答えを出せなかった。
だから、私と宮本君が付き合うということは、なくなった。
ただ…全く接点のなかった同期から、同僚であり一友人、という感じの関係には変わったのだと思う。
こうして、偶に彼が一緒に この場所で空を見上げているという関係ぐらいには。
「あれは、どこ行きだと思う?鈴木」
「どこだろう?宮本君は分かる?」
「さぁ…でも、アメリカかな」
「『さぁ…』って言いながら、見当を付けてるんだ?宮本君は」
「まぁね」
彼は不思議な人だ。
付き合う、付き合わない…なんて話が、中途半端にうやむやになっていたら、普通は気まずい感じになるんじゃないかと思うのに…
自然に空気のように…傍にいても、何の違和感も無理もなく過ごせる。
それは、初めて言葉を交わしたあの日以来。
彼の私に対しての口調や態度も、親しみやすい砕けたものに変わったからなのかもしれない。
「いい風…」
日差しも柔らかさが感じられて、程よく吹き抜ける風も心地よくて。
いつも一人で見上げていた空。
その空間に宮本 一生君がプラスされたけれども、これまでと変わらない感覚で、この時間を過ごせていることが、きっと、心地よさを助長している。
「確かに、いい風だな」
隣に立っている宮本君も、気持ちよさそうに顔を上向けて風にそよがれながら、目を細めている。
「そういえば、さっきの飛行機、いつもは『分からない』って言うのに、どうして、今日はアメリカ行きだって思ったの?」
「俺が、行くから」
気持ちよく日光浴でリラックスしていた身体が、途端に強張った。
【その7に続く】
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