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ある星の銀河警察に匿名の荷物が届けられた。
「こ、これは、例の工場の機密データじゃないか!」
「これで証拠が揃いました。一気に踏み込んで一網打尽にしましょう!」
そんな会話があったかどうかは分からないが、ぼくたちが機密データを届けてすぐ警察は工場に踏み込み、あっという間に違法行為をしていた人たちを逮捕した。
脅されて協力していた人やそこで生まれたロボットたちは保護されたという。
だからあの技術者さんもきっと無事だろう、とのことだった。
「でも、なんで匿名?」
ぼくが訊ねると、操縦席の彼女は答えた。
「わたしが依頼を受ける基準は報酬と面白さだ。それさえ満たせば相手が誰であろうと依頼をこなす」
「つまり?」
「わたしもお尋ね者だってことだよ」
「そんなことだろうと思った……」
便利屋としていろんな依頼をこなしているうちに、銀髪の少女は全方向に敵を作ってしまったらしい。
そのぶん味方もあちこちにいると言うのだが……。
「とにかくこれで依頼は達成だ」と銀髪の少女が言った。「さて、報酬をもらおうかな。確か何でもするって言ったよね?」
「う、うん……」
「ちょうど新しい宇宙船と助手が欲しいと思っていたんだ」
銀髪の少女が怪しげに微笑んだ。
彼女は初めから、それを狙っていたのかもしれなかった。
まどろむ意識の中、小さな声が侵入してきた。
次第にその声は大きくなり、頭の霧を晴らしていく。
「……これでよし。……ほれ、できたぞ」
「……はいはい。……あー、ラディウス215。……わたしの声が聞こえるかい?」
「聞こ……える……?」
投げかけられた言葉に、寝ぼけた頭で反射的に答えた。
「どうやら聞こえているみたいだね」
意識がはっきりしていくのを感じた。
銀髪の少女が話しかけているのが見えた。
それからもう一人、工具を持った作業服のおじいさんがいた。
彼らはぼくのことを見下ろしていた。
ぼくは、作業台の上に眠っているのだ。
「体を動かしてみなよ」
銀髪の少女に言われて、ぼくは上体を起こした。
両手を動かしてグーやパーを作ってみる。
それから作業台から降りて立ち上がった。
少しバランスを崩したが、うまくいった。
「移植直後にここまで動けるとは。宇宙船のソウルコアだったとは思えんな」と作業服のおじいさんが言った。
「人間を自称するだけのことはあるね」と銀髪の少女。
「うん」ぼくは体を動かしながら言った。「宇宙船よりこっちのほうがしっくりくるよ」
ぼくは人型のロボットになった。
ソウルコアを宇宙船から移植してもらったのだ。
「でも、こんな体にされてしまうとはね……」
ぼくが移植されたのは、身長2メートルを超える戦闘用のボディだった。
戦闘用というだけあってがっしりとした作りで、外装も人に似せる努力など一切しておらず、いかにもメカという感じだ。当然人間らしい顔の表情も作れない。
つまりそのボディは、ぼくがイメージするぼくとはおよそかけ離れたものだった。
「何が不満なんだい? そのボディのスペックはすごいんだよ。軍用のハイエンドモデルなんだから」
「はあ……」
「わたしの助手を務めるのならこれくらいのことはしないとね、ニーゴくん?」
「ニーゴ?」
「きみの愛称だよ。ラディウス215だからニーゴ。真ん中が伸ばし棒ってところがひとひねりしてあるポイントだよ」
銀髪の少女は無表情のまま右手でサムズアップした。
かと思うと指を広げて、その手をぼくのほうに差し出してきた。
「わたしの名前はテルルだ。よろしく、ニーゴ」
「よろしく」
ぼくは複雑な気持ちでテルルと握手をした。
彼女の手は小人のものかと思うほど小さかった。
まあよく考えたら、ぼくの手が大き過ぎるだけなんだけど。
何しろぼくと彼女では、身長差が50センチ以上もあるのだから。
「さてと。じゃあさっそく、次の依頼に行ってみようか」
ぼくを見上げてテルルが言った。
ぼくたちは作業服のおじいさんに別れを告げて、宇宙船ラディウスに乗り込んだ。
操縦席に座ったぼくは自分の首の端子にケーブルを差し込み、宇宙船の操縦システムと繋がった。これでぼくの意識は機体に移り、人工頭脳としての役目も果たすことになる。
ラディウスはソウルコア搭載の宇宙船だ。
つまり、ぼくがいないとラディウスは動かない。
ソウルコアを移植して人型のボディを手に入れたぼくだけど、ぼくが宇宙船であることに変わりはないのだった。
ぼくの隣にテルルが座り、操縦桿を握った。
「それじゃあ出発しようか、ニーゴ」
「分かったよ、テルル」
星々をめぐる宇宙船の旅が始まった。
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