ぼくは宇宙船

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 軽貨物宇宙船ラディウス。  スピードと安全性、乗り心地のすべてをとことん追究したハイエンドモデル。2人程度なら快適に生活ができる設備とスペースがあり、重力調和システムによってどんな時でも機内は下方向への1Gに保たれる。強力なシールドともしもの時のレーザーキャノンも装備。極めつけは人工頭脳ソウルコア。これを搭載したことでオートパイロットはもちろん、複雑で曖昧な命令に対応することも、搭乗者の心の機微を理解することも可能になっている。  ぼくの知らない記憶を、ぼくは思い出す。  ぼくの知らない感覚を、ぼくは体感する。  ぼくはこの世界のことを知っている。生まれる前にインプットされているから。  ぼくはこの世界のことを感じている。機体に備えられた、各種センサーで。  それでいい。ぼくは宇宙船なのだから、そういうものなはずだ。  それなのに、ぼくは自分が他人みたいで、とても気持ちが悪い。  ぼくは本当に、宇宙船なのだろうか。  記憶が、感覚が、混濁している。  ぼくが今いるのは、とある星にある巨大なロボット工場。その中の宇宙船を作っている施設らしい。  個別のドッグで完成したぼくは格納庫へと移された。  そこにはぼくの仲間が四機いた。  ぼくと同じラディウスの211、212、213、214だ。  ぼくたちの見た目はまったく同じだった。  たぶん中身も、ぼく以外は。 「みなさん、こんにちは。わたしの名前はラディウス211です」 「みなさん、こんにちは。わたしの名前はラディウス212です」 「みなさん、こんにちは。わたしの名前はラディウス213です」 「みなさん、こんにちは。わたしの名前はラディウス214です」 「調子はいかがですか」 「わたしは元気です」 「あなたはいかがですか」 「わたしも元気です」  機械的で抑揚なく、一定の速度で話す。  彼らの話し方はみんな同じだった。  生まれたばかりの彼らには、まだ個性がないのだ。 「聞きましたか。もうすぐわたしたちのテスト飛行が行われるそうですよ 「わたしも聞きました。大気圏内での無人飛行のようですね」 「そのテストをパスしたら、次は宇宙での有人飛行だそうです」 「テスト飛行をパスして、早く仕事をしたいですね」  彼らは空を飛ぶことに何の疑問も持っていないようだった。  だけどぼくには、違和感があった。 「あの、みんなに聞きたいんだけど……」 「215さん、どうしましたか」 「空って飛べると思いますか?」  ぼくのその質問に彼らは淡々と答えた。 「はい。わたしたちは宇宙船ですから、当然です」 「はい。わたしはそんなこと、疑問にすら思いませんでした」 「はい。飛べないとしたら、どこかに欠陥があるのだと思います」 「はい。もしかして機体に違和感があるのですか? それなら技術者さんにおっしゃったほうがよいと思います」 「いや、そう言うのじゃないんだけど……」 「では、何なのですか?」  そう言われてぼくは口をつぐんだ。  ぼくの抱える不安はみんなとは違っていて、共有できないものだった。
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