BANKEN番外「冬、来たりなば」

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「痛ぇ……」  思わず小さく呟いた俺の言葉を、布団の中でまどろんでいた石原さんは聞き逃さなかった。 「傷痕が痛みますか? ケン」  心配そうに俺の顔を覗き込みながら訊いてくる。 「まだ、完全にはくっついてないのかな?」  素朴な俺の疑問に 「傷は塞がっていると思うんですが、通常の怪我ではないですから、ね。弾創がこの寒さで痛むのだと思います」  石原さんが右太股の俺の傷痕に綺麗な長い指を這わせて確認した。  そこからじわりと石原さんの体温を感じ、俺の胸もじわりと暖かくなる。  俺がアニキと不仲になったのは、ぶっちゃけその場の空気に流されてアニキの彼女とシてしまった所為だ。  それが原因で本土に居づらくなり離島まで来たんだけど、その彼女とアニキがわざわざ離島にやってきたかと思ったら、昭和の使い捨てカイロかというくらいもめるだけもめて、二人は石原さんに逮捕された。  その時に俺は石原さんを庇い、名誉の負傷をした。  しばらく本土で治していたけれど、怪我が治ったので俺たちは離島に戻ってくることができた。 「……飯田鐵(いいだてつ)は……」  飯田鐵……俺の世話になっていた「アニキ」である。  どうやら、やくざの下っ端だったらしい。やくざの階層を上中下で表すと、アニキは「上よりの中」とか言ってたけど、どうも「中に入れない下」のポジションだったようだ。 「本気で君を撃とうとしたのでしょうか?」 「本気だったんじゃない?」 「そうかな?」 「でないと撃たないでしょ?」 「でも撃たれたのは命に関わらない右足ですよ」 「アニキ、銃の扱いがよっぽど下手だったんだな」  と言うと、石原さんは妙な顔をした。 「そう。下手でした。君に当ててしまうくらい下手だったんだと思います」 「?」  意味が分からない。
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