BANKEN番外「風邪立ちぬ」

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 なんか漂白剤の注意書きみたいな事言われて、石原さんに触ろうとした俺は思いっきり釘を刺された。 「もう寝ますから、ケンは僕から離れて。君にうつると困ります。勤務も休みますから」 「ああ、そうしなよ。駐在所で何かあったら俺が対処するから」  俺は、動くのが辛そうな石原さんを奥の六畳間に連れて行こうと思い、肩を貸そうと手を伸ばした。  その途端、ぱちんとその手を叩かれた。 「石原さん……」 「……自分で行けます」  石原さんは思わず叩いてしまったのだろう。気まずそうに視線を落として、モゴモゴと言った。 「ケンにうつると困ります……。今、僕が触れたその手もちゃんと洗っておいてくださいね」  熱で潤んだ伏せがちの目が色っぽい。 (俺の身を案じて、石原さん……)  俺の胸の内にじわりと熱いものがこみ上がってきた。  俺、石原さんの為に一生懸命看病するよ。  そうだな。このまま体温計が見つからなければ、おでこをくっつけて熱測るのもありだよな。飲みにくい苦い薬だって口移しで飲ませてあげるよ。身体動かすの億劫そうだったから、熱冷ましの座薬入れる時には絶対に俺を呼んで。必ず俺に手伝わせて。汗ばんだ身体もそのままじゃ毒だ。拭いてあげるから任せて。隅々まで綺麗に……う……うふふ……。いや、何? 恥ずかしがっている場合? そこは一番きれいにしておかないとダメだよ。ほら、ちゃんと俺に見せて。ぐ……ぐふふふふふ。  いや、ぐふふ……とか笑っている場合じゃないね。  いかん、いかん。想像するだけで嬉しくなっちまって、つい涎が……。
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