BANKEN番外「ジェネレーションギャップ」

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BANKEN番外「ジェネレーションギャップ」

「♪君の瞳は百万ボルト。地上に降りた天使ー♪」 「おっさん。何だよ、その歌は?」  傾きかけた夕日でオレンジ色に染まる海辺。  俺と石原さんは、この島の漁師3兄弟の長兄・マツのおっさんに「明日の漁の準備を一緒にしてほしい」と頼まれて、網の修理や漁の片付けを手伝っていた。  俺が名付けた「浅黒い三連星」の弟のスエ、トメが今日は風邪をひいて寝ているらしい。だから、一緒に仕事できないそうだ。「働き手がないのなら、明日の漁は休めばいいじゃない?」というマリーアントワネット的な発想は、この「勤労は美学。シケ以外は漁に出る」の昭和男にはない。 「ああ? この名曲を知らんのか? 大型ケン」  穴の開いた箇所をちまちまと直しながら、マツのオッサンが言った。 「いや、俺の名前は、緒方ケンシロウだっつーの。大体、おっさんの声掠れてて聞き取りづらいんだよ」 「ケン、ダメですよ。いくらマツさんの声が海風にさらされてしわがれていても。こういう声はハスキーボイスって言うんです」 「ん? 石原さん。それは褒めているのかな?」  マツが微妙な石原さんの褒め言葉に疑問を投げかけた。 「全力で褒めてます。大丈夫です。マツさんの声、ハスキーで素敵ですよ」  大丈夫と言った辺りで、かなり怪しい褒め方だなと俺は思った。  駐在所の本来の主・石原陸裕さんは、島民にめちゃくちゃ優しい。いつだって親切心全開で頼まれたら何でも手伝っていた。  だから駐在所に居候の俺・緒方堅志朗は、石原さんに付き従って同じくボランティア活動に勤しんでいた。 「マツさんの歌声、かっこよくって、とってもセクシーです」 「えへへー。そうかい?」  石原さんの全力の賛辞に気をよくしたおっさんが 「なんかリクエストあったら言ってくれ。『愛のメモリ』でも、何でも歌うよ」  とまで言い出した。 (なんで「愛のメモリ」限定なんだよ。逆にリクエストしてんじゃねえよ)  石原さんが、マツのおっさんの声をセクシーだなんて褒めるから、俺はむかついた。  ちょっと意地悪してやれと、俺は子供アニメの主題歌をリクエストした。 「じゃ、どら●もんの歌」  絶対におっさんは知らないだろうと思っていたが、マツは 「任せろ」  と拳をマイクに見立てて歌い出した。
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