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静かなエンジン音が聞こえると、ヴァーニャは音の方に顔を向けた。轍を縫って遠くから黒塗りの高級セダンが自宅に向かって来るのが見える。
「カリムだ!」
ヴァーニャは興味深々に声を上げた。
「ね、ツァーリ、カリムだよ!帰って来たんだね!」
ダーチャは悪戯めいた笑みを見せて戯けた。
「そうかな?」
「そうだよ!」
セダンは邸宅の前で停まり、自動で邸宅の門扉が開いた。ガレージの横で止まった。運転席からから降りたのは、F国の出張から戻ってきたヤン。後部座席から遠征からスイスに戻って来たニコとニコを迎えに行ったマクシム、そして助手席から降りたのがカリムだ。
「ほら、カリムだ、降ろして!」
ダーチャに降ろして貰ったヴァーニャは一目散にカリムに走って行く。大好きなカリムのふくよかな脚に飛び込んで、泥だらけのままぎゅっと抱きついた。
「おかえりなさい、カリム!」
カリムは急に飛び込んで来た幼な子に目を丸くした。
「ヴァーニャ、どうしたの?!泥だらけで。」
ヴァーニャは目をキラキラと輝かせて言った。
「あのね、お庭のマグノリア花が咲いたの!僕が見つけたの!ツァーリに肩車して貰ってたの!」
聞いたカリムは微笑んでヴァーニャの鼻をつつき、家に戻るように促した。
「じゃあ、おうちに戻って、着替えて、手を綺麗にしたら、そのお話を聞かせてくれる?」
ヴァーニャは素直に満面の笑みをカリムに見せ、頷いた。
「うん!!!」
その一部始終を玄関から見ていたイリーナは、呆れて頓狂な声を出した。
「やだ!あれじゃ、パパのほうがニャーニャじゃない。」
祥はその横でくつくつと忍び笑いをして、イリーナと目が合うと、イリーナは恥ずかしそうに笑う。
「イリーナはこれからでしょ。いいニャーニャになるよ。だって、あのカリムの娘だもん。末永くよろしくね。」
褒められたイリーナは嬉しそうにはにかんだ。
「……此方こそ!! ショーにそう言って頂けるなら、有難いです。」
間を置かずバターと砂糖の混じった、アーモンドの甘い香りがリビングの方から漂ってきて、そろそろオルガ特製のパフラヴァがサーブされる時間だと教えてくれる。
祥が声をかけた。
「ヴァーニャ、そろそろおやつの時間だよ!」
「やった!」
その一言で、ヴァーニャは飛び上がって喜び、イリーナに向かって駆けてゆく。二人は仲良く手を取って、一緒に邸宅に入っていった。
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