08 • Zurich • それから

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足音の主は祥と、もうひとり。ツァーリを拝命したダーチャだ。二人はリビングでイチャイチャするのを中断して、ひょっこりと廊下から顔を出すと、ヴァーニャと目が合った。 「ヴァーニャ、どうしたの?」 ヴァーニャは目を輝かせ庭の方を指差した。 「ツァーリ、ショー、お庭のマグノリアの花が咲いたよ!」 「それは素敵だね!」 祥はヴァーニャの可愛い仕草に顔が緩みっぱなしだ。 ダーチャは「僕にも見せて!」とヴァーニャの元へ駆けてゆく。小さな身体を抱き抱えると、ヴァーニャは肩車をせがんだ。 「ツァーリ、肩車して!」 「いいよ。」 ダーチャに肩車されたヴァーニャは大喜びで、咲いたばかりのマグノリアの花に触ろうと一生懸命手を伸ばしている。ダーチャもヴァーニャが手を伸ばすタイミングに合わせて幾度かジャンプを試みていた。 二人の様子を玄関越しに見つめていた祥は、クスクス笑いが止まらない。隣で不安そうに二人の様子を見ていたイリーナに祥は声をかけた。 「ねえ、イリーナ。 ダーチャがツァーリになったら、威厳でも出るかと思ったら全然だ。あれじゃ、親子というより、子供が二人だよ。そう思わない?」 イリーナは眉間に皺を寄せて深い溜息を吐いた。 「……笑い事じゃないですよ、ショー。それにダーチャの事はツァーリって呼んで頂かないと、次期ツァーリのヴァーニャに示しがつかないじゃないですか。」 祥は戯けたように肩を竦ませた。 「ごめんね、イリーナ。俺にとっては、俺だけのダーチャなんだ。これは変えられない。そこのところの教育、よろしくね。」 イリーナは、祥がホームステイしていた、あの幼い頃を彷彿とさせる表情で、ぷう、と頬を膨らませた。 「もう!みんな、勝手なんだから!」
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