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書類の確認が取れたら完了だと思い、ほっとしたのも束の間、役所からダーチャと祥、二人で来るようにとの呼び出しがあった。二人の婚姻が偽装でない事を証明するための面接だ。
馴れ初めから付き合っていた間、プロポーズまで微に入り細に入り、役所の担当者が聞いてきて祥は閉口したが、彼らもそれが仕事だ。
他人の惚気を、仕事として聞く方も大変だ。ましてや相手は、「祥!大好き!!」と好意をダダ漏れにしている、ダーチャだ。
仕事とはいえ、担当者が気の毒である。
面接では二人の愛の軌跡の説明では足りず、付き合っている間の写真も証拠として見せなくてはならなかった。
いつの間に撮ったのか、ダーチャは祥の写真を大量に持っていた。ダーチャのスマホの圧倒的な容量を占めるのが祥の写真や動画で、待ち受けも当然、祥の写真だ。それ以外にも祥の画像専用のクラウドサーバーを持ち、しかも容量が足りずに増設したという。
あまりに膨大なため、ダーチャが担当者に見せたのは、お気に入り厳選セレクション画像の数々だった。
「これはショーがご飯を食べてるところ。」
「これはショーが僕の隣で寝てるところ。」
「これは僕のお気に入りで、見てみて!このあくびしてるショーの顔、すっごく可愛いでしょ!キスしたくなっちゃう!」
「これは、仕事してるときのショー。もう、惚れ惚れするくらいカッコいいよね!あ、でもショーのこと素敵って思っても、好きになっちゃダメだよ!」
ダーチャは完璧なドイツ語で写真を披露しながら事細かに一枚一枚状況と感想を述べて、担当者と祥を見事にドン引かせた。
事あるごとに祥のことを「大好き!」と公言して、10年経てもなお好意をダダ漏れにするダーチャと、それを呆れながらも微笑ましく見つめる祥の馬鹿ップルを、偽装だと疑う職員はひとりも居なかった。
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