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序章
一、形栖みやの忌み名を二度と使わない。
この他にも、約束事ができた。
二、街中では無意味な接触をしない。
三、みやに甘い対応をしない。
どちらも、松野愛理の件が片付いたばかりのある日に決めた約束事だった。
突如現れた許嫁という存在は、周囲に想像以上の動揺を与えてしまうらしいから。
無意味な接触をしない。
たとえば、街中ですれ違っても会釈で済ませる。
ただし、危険があれば結局は傍にいるし、雨の日は晴れの日よりも人目に付きにくいので、これ幸いと彼女を迎えにも行ける――という蓮見なりの個人ルールを定めている。それを彼女がどう思っていても、わりと見ないふりをしている。
みやに甘い対応をしない。
その理由はとても単純だ。
彼女は、蓮見が優しいのが怖いと言った。それなら多少は厳しく当たったり、酷いことを言ったりすればいいんじゃないのかな。というのが、見た目に反して思考が雑な蓮見の結論である。
例を挙げれば、
ある雨の日に彼女を迎えに行った時の『このお馬鹿』。
電話向こうの相手を確認もせず応答してしまった彼女への『迂闊だったね』。
このあたりである。
元々、曖昧なルールだ。
松野愛理の自殺と、みやの忌み名による洗脳。これらの事件は両者共に――大きな目で見れば、特にみやが――衝撃を受けて、自分たちを慰めるためにも必要な措置だった。
事件から少し経った今、後ろ二つの約束だけは、徐々に風化している。
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