ユキside

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ユキside

 神威さん、という女性宅から帰るとき。どうやら私は人間じゃなかったみたい。まだ、あの女性が言う事だからにわかには信じがたいことだけど、私みたいな子が世界各地でいるみたい。神威さんとやらは薬を飲んで私が見えるようになっているけど、本来は薬を飲ま無ければ虚空にしか見えていないんだって。  私は虚空の妄想によってできた架空の人物。そして神威さんは私を人間にする薬を持っているらしくて、その薬を貰うって約束したの。でも、虚空の中にいる”核”とやらが私を造り出したみたいだからその”核”をやっつけたら薬を上あげる、って神威さんに言われたの。”核”をやっつけたら私みたいな人間じゃない、と気づいて落ち込む子も、誰にも見えなくて孤独に生きていく子もいなくなるから、私は倒しに行くことを決意したの。…そして”核”を倒しに行くって神威さんに言ったら虚空も連れて行けってさ。 「今日の晩御飯は焼飯にするから買い物していくね」  私が考え事をしていた時に急に話しかけられ、ビクリと反応し反射的に頷く。  ヤキ…メシ…?  聞いたことのない言葉が虚空の口から飛び出し、私は心の中で小首を傾げる。虚空の妄想の世界では焼飯という食べ物がなかったのかな。わたしはどんな食べ物なのか気になりワクワクしながらスーパーの前で虚空の帰りを待った。 「ただいま」  それから十分程度が経った後、虚空が帰ってきた。夏ということもあり、外は丁度良い涼しさだった。私は虚空の両手を確認した後、口を開けた。 「お、おかえりなさい。それ、何買ったんですか?」  虚空の両手には有り得ないくらいぎゅうぎゅうに詰め込まれたビニル袋があった。しかも両手に二個ずつ。私は目をはてなにしながら、慣れない敬語で虚空に問うた。 「あぁ、ユキがくるっていうから奮発したんだぞ」  奮発…一体何に奮発したのだろうか。私は苦笑いしながら虚空の持っていたビニル袋(重いのを持とうとしたら拒否されたので軽い方)をひとつ持ち、虚空と肩を並べて帰ろうとした。 「あぁ、ユキはい、これ。アイス」  あ、あい、す?  また知らないワードが耳に飛び交った。なにそれ、美味しいの?あぁ、宿題は?って聞かれた時の小学生の反応しちゃった。でも、まず食べ物なのかも分からないし…?  そんなことを思っていると、虚空は何やらビニル袋から取り出して私に渡した。あ、ダジャレじゃないからね。 「冷たっ」  その食べ物は思ったより冷たくて反射的にそう言ってしまう。私は袋からそれを取り出す。それは何か冷えたものに棒が刺さっていてやっぱりよく分からなかった。 「アイス知らないの?」  そう虚空が聞いてきて私は小さく頷く。虚空に「かじってみて」と言われ、私は目を瞑り、かじる。 「…美味しい!」  口の中にひんやりと広がってきて、この丁度良い甘さ、最高! 「でしょ」  虚空は微笑した。私はこくこくと何度も大きく頷き何度もかじりついた。あぁ、こんなに美味しいんだぁ、あいす!また食べたいな!そんな、小学生みたいな感想を心の中で呟いてから、最後の一口を食べ終えた。
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