うちの家族は、どこかズレているけど、嫌いじゃない

2/8
前へ
/8ページ
次へ
今思えば可笑しな話だ。 あんなに偉そうな父親が、母親には頭が上がらない。 母親は小柄な部類に入る。 中学生になったばかりの私が、もうすぐで背丈を超えそうなぐらい。細身だし、力比べでは父親に敵わないだろうに。あの口の悪く、粗暴で大柄な父親ならば、母親をシめる事は造作も無い。 自分で考えておきながら、腹が立った。 「ねぇ、仕事…行かないの?」 聞き方が少し素っ気なかったかと、少し反省する。しかし、父親は全く気にも止めていないようだ。オレンジジュースの入ったグラスを、手渡してくる。 「ああ?まだ、出勤時間じゃねぇし、大丈夫だろ。」 少なくとも、ニートでは無い事がわかり、ほっとした。 しかし、何の職業かも聞かなければならない。意を決して、気になっていた事を聞いてみた。 「…何の、仕事してるか、聞いてもいい?」 父親は目を丸くした。 こんなに驚いた顔は、はじめて見る。 「は?…ん?仕事…言ってなかったか?」 「聞いてない…。」 「マジか…え、言わなかったとしても、気づいてもいなかったのかよ。嘘だろおい…。」 整えてあった髪をかき乱し、深いため息をついた。 「あー…紗知にも言われたが、そうかぁ…気づいて無かったか。」 「お母さん?」 「子どもらに、仕事の話くらいしてやれって。特にお前が勉強で悩んでるから、アドバイスしてやれるだろって。変に黙ってると、ヤクザかホストにでも間違えられるぞってな。」 流石、母親。私の思っていた事を察して、そのまま父親に伝えてくれていたようだ。しかし、勉強で悩んでいる事と、父親とどう関係するのだろうか。 「ごめん…思ってた。」 「はぁぁぁぁぁぁぁ…。」 体内の空気を全部吐き出さんばかりの、深いため息だった。余程ショックだったようだ。 父親は、ソファに置いたかばんを掴み、中を開ける。そして1枚の名刺と、パンフレットのような物をテーブルに置いた。 「ほらよ。」 パンフレットの表紙には、目の前の父親の姿。そして名刺には、近所にある有名な進学塾。中央には父親の名前と講師の文字。 「…講師って…先生!!?」 思わず跳び上がってしまった。 予想していなかった職業に、開いた口が塞がらない。 「驚きすぎだろ。」 父親が呆れたように見つめる。 「に、似合わな…っ。」 「やかましい。よく言われてるが。」 「い、言われてるんだ…。」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加