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ヤクザかホスト寄りの見た目をした男が、人に勉学を教える立場とは。俄然興味が湧いた。いや、湧かない奴などいない。
「へぇ…何を教えられるの?」
「担当は数学と英語だが、全科目教えられる。」
どうでもいいと言わんばかりの言い方だ。私としては、色々と驚く事ばかりである。
「…お父さん、賢かったの?」
「馬鹿にしてんのか。これでも有名大卒業してんだぞ。」
「うわぁ…見かけによらないね。」
「よく言われる。おもにお前の母親に。」
「言われるんだ…。お母さんに。」
「つうか、お前親の仕事に興味が無さ過ぎるぞ。」
深いため息をつかれる。
しょうがないじゃあない。
私は自分の事で必死だったのだから。
「何で先生なの?お父さん…子ども嫌いじゃん。」
「嫌いじゃねぇ、大っっ嫌いだ。まぁ、好みに躾るのは好きだけどな。」
「え…躾るとか、キモい。」
「やめろ。母さん似の顔で毒を吐くな、傷つくだろ。」
どちらかと言えば、髪色や瞳からして、父親似のはずだが。
「母さんによく勉強教えてやってたんだよ。お前に似て、勉強出来なかったからな。平均がとれてマシな方で、赤点ギリギリでよ…。」
確かに今の私と同じ状況だ。
「そしたら、テストで90点が当たり前のように取れるようになりやがった。あいつなりに頑張った成果だと思うが、俺の教え方が良かったからだとか、教師向きだと褒めてきてな…。あんま、褒められた事無かったし、母さんの言う事はハズレがないっつうか、俺という人間を見て言ってくれてる感じがしたし、まぁ、きっかけはそんなもんだ。母さんには言うなよ。」
「あ、聞いちゃ駄目な奴?」
廊下の方で、声がした。
馴染みのある声に、父親はソファに突っ伏し、私は少し跳びはねてしまった。
「お母さん!?」
「あー、もう愛奏!やっぱり学校サボってたのね。先生から連絡来てたわ。風邪って事にしといたわよ。サボるならサボるで、言ってくれなきゃ口裏合わせられないじゃない!次サボる時は言ってちょうだい。」
普通学校を勝手に休めば、ちゃんと学校へ行けと叱るものではないのだろうか。
「お母さん、私が言うのも何だけど、怒るところ可笑しいよ…。って、買い物してたの?やけに量が多いけど。」
私の言葉に、父親は勢いよくソファから飛び出し、母親に近づく。4つのレジ袋に、パンパンに品物が詰め込まれている。
父親は深いため息とともに、顔を赤くして怒っている。
「おっ前なぁ…買い物して帰るなら俺を連れていけ!重い物を持つな、体を大事にしろ!」
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