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「大体お前は冷たい!!俺がフランス行く時も追いかけて来なかったし!!」
「追いかけて欲しかった訳ね、無駄にロマンチストで面倒臭い男だわ。結局5日で戻ってきたくせに、何が日本には戻らないよ。黙って落ち込みなさい。」
いつの間にか、2人の話は脱線している。
「私、お母さんがスーパーで働いていたところ見たんだけど。」
「あー。1度だけ友達の手伝いで、働いた事あったかも。勘違いしちゃった訳ね。でも本職は違うわ。」
「つうか愛奏。俺が手塩にかけた女が、スーパーのレジ打ちしか出来ねぇ訳ねぇだろうが。こいつは俺の次に頭も要領も良かったからな。」
「説明するから、ちょっと黙っててくれない?」
ピシャリと言い放つと、父親が黙った。
「お父さんが、塾の講師してるでしょ?あの塾の近くに、カフェがあるの知ってる?」
「うん、あの…総合格闘技ジムが隣にあるところ。」
カフェもジムも、女性総合格闘家が経営している事で、この辺りでは有名だった。1度友達と、カフェを訪れた事がある。お洒落な店内と、野菜を使った写真映えするお洒落なスイーツが楽しめて、また行きたいねと話していた。
それと、ジムの方は、兄が最近通い出した事で少しは知っている。スタッフや通っている人達は、筋骨隆々な男達が多く、圧迫感があって少し怖かった。
「そう。そこ私経営してるの。」
無邪気に、そう告げる母親。
「………ああ?」
思ったよりも、低い声が出てしまった。
「あ、今のアキにそっくり。やっぱり、お父さん似なのね。」
「何言ってやがる。この可愛い顔立ちと素直さはお前似だろうが。」
「ちょ、ちょっと待って…ちょ、一旦整理させて?え?え、でもあそこって。」
そしてさり気なくいちゃつこうとするな、この父親は。どんだけ母親大好きだよ。いつまで膝枕してるの。
「…お母さんの職業は、何ですか?」
恐る恐る訊ねる。答えは出ているのだが、もう1度聞き直したくなった。冗談であれと、少しばかりの希望も、見事粉砕された。
「総合格闘家兼経営者よ。」
「予想の斜め上どころか、大気圏突破した。」
「ごめん、何言ってるかお母さんわからないわ。」
「お前なぁ…。少しは親に興味持て。つうか、レジ打ちと俺だけの収入で、お前ら養いながら、こんな一軒家住める訳ねぇだろ。」
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