うちの家族は、どこかズレているけど、嫌いじゃない

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確かにその通りだ。母親の膝に顔を埋めながら、偉そうに言いやがってとは思うが。 私達の家は部屋数が多く、サウナまでついた庭付きの2階建て。モダンな外装の家の隣のガレージには、父親の乗るレクサスと母親の乗るバイクが停まっている。更に我が家は多世帯。それなりの収入が無ければ、生活は難しい。 しかしだ。こんなに小柄で、細身の母親がよりにもよって格闘技をしているだなんて、信じられる訳が無い。 「…本当に格闘家なの?」 「本当よ。信じられないなら、後で動画サイトで、お母さんの名前検索しなさい。あ、旧姓でね。それとも、今ここでお父さん相手に技でも決める?」 「おい、お母さんを未亡人にするんじゃない。後で自分で調べろ。」 先程も聞いた台詞だが、印象が全く違って聞こえる。母親に殺される等と言っていた事は、冗談ではなく、本気で言っていたのか。 「じゃあ、今は信じるけど…何でその、格闘家やカフェや、全く違う2つをやっているの?」 「そんなの、どっちも好きだからやっただけよ。えっと、きっかけはお父さんと同じなのよね…。」 母親は照れた様子で、話を続ける。 父親がその姿をガン見しているのは、何だか怖い。 「格闘技はアキが道場に連れて行ってくれたから始めたの。お菓子作りもアキが教えてくれたわ。どっちもお父さんに褒めてもらったから、続けていくうちに、楽しくなっちゃった。先に格闘家になって、賞金を元にカフェを経営したわ。ジムは元々あったスポーツジムを買収して、総合格闘技ジムに変えたの。」 楽しそうに、昔を思い出しながら答える姿は、我が母親ながら可愛らしかった。 成る程。2人共理由は同じか。好きな人に褒めて貰った事を活かした仕事を選んだ。きっかけは些細な事だが、それを有言実行した努力と才能は素晴らしいとしか言いようが無い。実際私が保育士に興味を持ったのも、弟達の世話をした事で、2人に褒めて貰う事が嬉しかったからだ。 「凄いねお母さん…。」 「ありがとう。でもアキの方が凄いわよ。私の夢を応援しながらも、自分の仕事や家事まで頑張ってくれるんだから。朝ご飯もお弁当も、夕飯だってアキの手作りがほとんどだし。」 「ええ!!??嘘だ!!昨日のオムレツも?あのメデューサみたいなケチャップアート描かれてたやつ!」 「可愛い兎描いただろうが。何で娘の弁当に、神話生物描かなきゃなんねぇんだよ。」 その時、我が家の電話機が鳴り響いた。
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