初めての日の話*スターマイン番外*

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 五月下旬、春の暖かい日差しが降り注ぎ、夏の訪れを感じさせる季節になった。  葵くんと付き合い始めて、もう二か月が経つ。忙しかった仕事も四月に入ってからは落ち着き、今度は反対に葵くんが多忙になってしまった。  大学が始まり、どうやら学童のバイトも時間を増やしたようで、平日も、時には土曜日も、一日中スケジュールが埋まっているなんてことは珍しくない。  ゴールデンウィーク中は一緒に出掛けたりしたけれど、お互いの用事もあってそこまで長い時間を過ごしたわけでもない。週末に会えない時もあり、なんとなく物足りなさを感じてはいる。  そんな気持ちが後押しをしたのかもしれない。土曜日の夕方、少し早めに夕飯の支度を終えた私は、しばらく悩んだ末に携帯を手に取った。今から食べに来ないかと、急な誘いのメッセージを送り、ほどなくして「今から行く」とこちらも急な返信がきた。  予想外のことに内心、舞い上がっていた。久しぶりに家でゆっくり話せる。ご飯を食べて、まったりして、大学や学童の話を聞いて。そんな時間が過ごせると思っていた私は、目の前の真剣な顔をただ呆然と見上げた。 「……葵くん、なにしてるの」 「押し倒してる」  そう、押し倒されている。頭の中は大混乱だというのに、覆いかぶさる葵くんがあまりにも当たり前かのように言うものだから何も言い返せなくなってしまった。  あれ、おかしいな。さっきまで普通に夕飯を食べていたはずなのに、いつの間にこんなことになってしまったのだろう。すぐ横にあるローテーブルの上にはまだ中途半端に残った料理があり、これから片づけてコーヒーでも淹れるつもりだった。
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