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まだ履きっぱなしだった靴を脱ぐと、中で不快な水音が鳴った。重くなった靴下を脱いで靴に突っ込み、ところどころ濡れている廊下を、そこを避けながら歩く。
洗面所のドアの先からシャワーの音が聞こえてきて、足早に通り過ぎた。余計な思考を掻き消すかのようにリビングのドアを勢いよく開け、中に入る。
そこに広がっている光景を見て、茫然とした。部屋が散らかっている。普段、突然訪れた日も、いつだって綺麗にしてるこの部屋が、今では物が散乱しているのだ。
よく見れば、ベッドやソファに置き去りにされているのは洋服だった。見覚えのあるワンピースやスカート、シャツ、それだけならまだしも、下着も何着か目に飛び込み、どうしたらいいか分からずにそっと目を逸らす。
これ、見ちゃまずいんじゃないのか。どうしよう。部屋の外で待っていようか。いや、それも不自然か。
そう考えているうちに慌ただしい物音が聞こえ、すぐに洗面所のドアが開いた。髪を濡らしたままの花さんが、Tシャツと短パンという出で立ちでタオルを被って出てきた。早すぎる。
「お待たせ、早く入っ……」
言葉尻が消え、部屋の光景を見て固まった。数秒の沈黙が流れ、タオルで顔を覆いながら部屋の奥へと入っていく。
「ご、ごめん……っ、その、出かける前に、慌てて……今、片づけるから」
片っ端から衣類を掴み、両手いっぱいに抱えていく。いくつか取りこぼしながらも回収し、部屋の隅のクローゼットを開けるとそこに投げ入れた。勢いよく閉め、俺の前まで戻ってくる。
「これ、新しいタオル。脱いだ服は乾かすからちゃんと掛けて、それと」
言葉を聞き終わらないうちに、その小さな身体を抱き寄せた。もう無理だ。こんな状況で、こんな姿で、普通にしていろだなんて酷すぎる。
「あおい、く」
「花さん、ごめん」
温まった身体から、甘い匂いが漂ってくる。濡れた髪が頬に触れ、更に強く抱き寄せるといつもよりも柔らかい感覚に気付いてしまった。あぁ、これは駄目だ。
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