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ようやく離した口から、はぁ、と大きく息が漏れる。上手く呼吸が出来ていなかったのか、荒い息遣いで見上げてくる表情が扇情的で、ぐらりと理性を失わせる。
「葵、く……、おふろ、先に」
「そんな余裕ない」
「え、なに……、ひゃっ」
屈んで細い腰に手を回し、両足も抱えて一気に持ち上げた。予想以上に軽くて拍子抜けする。なんだこれ、軽すぎるだろ。普段から児童を抱える機会もあるが、それと大差ないんじゃないかと思えるくらいだ。
「こ、こわいっ」
「落とさないから大丈夫」
急に目線が高くなったからか、声を上げながらぎゅっと肩にしがみつく。大して距離もないベッドに移動して降ろすと、スプリングでわずかに揺れながら丸い瞳がこちらを向いた。
「濡れたままじゃ、風邪ひくよ……」
「脱げば関係ないだろ」
着ていた服に手をかけて脱ぐと、ずしりと重く、搾れるほどの水分を含んでいた。雨で湿った肌は少し不快だが、今の時期、裸で寝たって寒くはない。
濡れた服を放り投げて花さんを見れば、ばちりと目が合い、またすぐに逸らされた。先ほどから何度もそうして背ける顔が赤らんでいて、意識してくれているのかな、と思うと自分の欲が湧き上がってくるのが分かる。
抱きしめたせいか、花さんの服も水分を吸収して色を変えていた。座ったままの背中に触れ、裾を持ち上げると、制止するように彼女の手が自身の服を掴んだ。
「嫌?」
聞くと、首を横に大きく振る。俯いた瞳が何度も瞬きをし、睫毛が忙しなく上下する。
「あ、あの、あのね」
「うん」
「私、その、こういう時どうするのが普通か、よく分かんなくて」
自然と、頭の中に以前付き合っていた男の姿が蘇ってくる。
分かっていた。普段から暴力を振るうような男が、彼女を抱く時にもそうしてたであろうことは容易に想像がつく。彼女自身の口からこういう発言が出るということは、他にまともな経験もないのだろう。
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